宇尾地米人

カサンドラ・クロスの宇尾地米人のレビュー・感想・評価

カサンドラ・クロス(1976年製作の映画)
-
 「カサンドラ・クロス」というのは鉄橋の名前で、大陸横断特急列車が走り出して、この鉄橋、カサンドラ・クロスという題名が分かってくると、映画のスリルが大いに高まってくる。国際保健機構を襲撃したテロリストが、恐ろしい病原菌に感染してひとり逃げ出した。その男がこの特急列車に乗り込んだ。これには1000人の乗客が乗っているが、感染拡大を阻止するため、アメリカ陸軍情報部が驚きの画策を練り始めました。特急列車内で、感染者が増えていき、乗客たちも冷静さを失っていく。さあどうなっていくかというお話。

 大列車が出てくる映画は昔からあるわけですが、映画の誕生、サイレント映画、大活劇映画、西部劇と列車の存在は映画の歴史でも欠かせないですね。その利便性、重量感、疾走感、なによりも画になる。だから大列車映画は昔から現在に至るまでたくさんあります。『カサンドラ・クロス』は数多くある大列車映画のなかでも、特に恐ろしさを含んだ、緊張感が高まる大作ですね。1932年に『グランド・ホテル』が作られ、1939年に『駅馬車』が作られました。一か所に様々な人間模様が集められ、ひとつの大きな目標を目指したり、大きな危機に直面したり、そういったスタイルが面白いぞと支持されて、基盤のようなものが出来ました。それから、1972年の『ポセイドン・アドベンチャー』と1974年の『タワーリング・インフェルノ』の大ヒット。これがあって、名実個性派揃いのオールスターキャストが、大事故大事件に巻き込まれたり立ち向かっていくような大規模な企画製作が相次いで、パニック映画ブームのようなもんが起こりましたね。『カサンドラ・クロス』もそういった流れのなかで作られた大作でした。ところがこの映画は、列車内で事件が起きる、というようなこれまでもあったサスペンスだけじゃあない、怖いアイディアを取り入れた。伝染病の拡大とその封じ込めという、医学的・軍事的テーマが、この大列車事件に関与してきます。巻き込まれた乗客たちはどうなるか、主人公のドクターとパートナーはこの大変な事態にどれだけ頑張れるか。さらにアメリカ軍は、この特急列車にどんな作戦をとるのか。どんどん緊迫の展開を見せていきます。

 この大作を製作したのが、カルロ・ポンティ。イタリアの大物プロデューサー。フェリーニ、ゴダール、デ・シーカ、アントニオーニ、ポランスキーらの監督作をプロデュースしてきました。これほどの人が満を持してこのサスペンス巨編を製作した。イタリアの一流スタッフを揃えてこの大作を手掛けたわけですね。監督はギリシャ人のジョルジ・パン・コスマトス。当時35歳で、本作の原案・脚本・監督にあたりました。この成功を収めてから、アクション大作を続けて監督していきました。そしてキャストの顔ぶれの凄さ。アイルランドのリチャード・ハリス、イタリアのソフィア・ローレン、レイ・ラヴロック、アリダ・ヴァリ、アメリカのバート・ランカスター、エヴァ・ガードナー、マーティン・シーン、スウェーデンのイングリッド・チューリン、オーストリアのリー・ストラスバーグら世界各国の大物俳優たちが、このパニック・サスペンスを大いに盛り上げていきます。
宇尾地米人

宇尾地米人