ナカムラ

サウダーヂのナカムラのレビュー・感想・評価

サウダーヂ(2011年製作の映画)
3.8
久しぶりの新宿『K's cinema』は、相変わらず小綺麗でちょこんとした映画館で、場所柄も相まって、コンクリートの裂け目から顔を覗かせるコスモスみたいだなと毎度思う。
「しかし、新宿は人が多くて緊張するなぁ」
入場する際、弟が独り言みたいに呟く。
「●●●は緊張しない?」
「別にしないよ」
それは本当で、どこにいたって、異国に迷い込んだ、ひとりぼっちの異邦人のような気分がしてくるからだ。

とにかく暗くて長い。10年前の山梨を舞台として、クソ憂鬱な田舎の閉塞感と人間関係を3時間にわたってこれでもかと描いている。徐々に、確実に死んでいく町。消えてゆく灯。錆びてゆく夢。しかし、そこで生きていくしかない人々の抱える苛立ちがすべてのフィルムからじんわりと、真綿で首を絞められるように伝わってくる。納豆が食べられることを日本人らしさと言い切る土方、育ってきた環境ゆえに自分が無知であることすら気付かずただただ暗闇に転がってゆくラッパー、ラブアンドピースを怠惰の言い訳にして男の間をゆらゆらと踊るファム・ファタールまがい。
出てくるすべてのものが、すべてのものにとっての異物なのだ。
なんて醜悪なんだろう。
けれど、何故こんなにも美しくて愛おしいのだろう。

弟と別れてJR新宿駅に向かう。
足を止めて、雑踏が生み出す声に耳を傾ける。
それはまるで異国の音楽のように聴こえる。