大傑作。富士山や桜のようなクリシェのビジュアルを使うことなく、しかしこれぞ日本としか言いようのないショットが続く。
日本の姿は、墓地や商店街の暗がりや、イオンモールの建設予定地としてあらわれるが、どれも痺れるほどに美しい。
この映画を観たあとでは、毎回国政選挙で後に嘆く左派たちのお決まりの文句──「投票率が伸びない」「今回の選挙は何かが変わると思ったのに」「自民に入れた人を馬鹿にしてはいけない」──等々の言葉がとんでもなく周回遅れだということがよくわかる。いつまで同じことやってんだ。
ヒップホップ、移民、ナショナリズム、シャッター街の拡大、スピリチュアル、地方の貧困……公開は十年前だが、問題意識は古びるどころか鋭利さを増している。
この十年でなにが変わった?移民のこと、中央集権のこと、政治のこと、いったい何が進んだ?
観客がかつて抜け出した因習的な“地元”は、抜け出した者を追うことなく今日も蠢き続けている。
私たちがこの映画を観る理由は山ほどあるのだ。