ゆうすけ

サウダーヂのゆうすけのネタバレレビュー・内容・結末

サウダーヂ(2011年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

10年ぶりにデジタルリマスターで再見。

甲府を舞台にした群像劇。登場人物が次から次に出てきて様々な会話を交わす会話劇でもあるのだが、常に同床異夢、面と向かって話をしているのに互いに違うものを見ており、ほとんどのシーンで会話が食い違っている。恐ろしいのは、このようなコミュニケーションをしているのに当人同士はそのことに気づいておらず、あたかも話が通じて心が響き合っていると錯覚しているところだ。仮初めの共感により本質的な断絶はむしろ深まっていき、やがて欺瞞を糊塗できなくなった地点で別れや刃傷沙汰などの惨劇が起きる。普遍的な悲劇を、地方都市の衰退と重ね合わせて描く。

クライマックスで土方の精司が見る夢が哀しい。人で溢れかえる商店街、夏祭りの浴衣を着た若い女性たち、道を埋め尽くす暴走族、にこやかに手を振る呼び込み、爆音で鳴り響くBOØWY……あれが精司にとっての理想の世界、シャングリラ、この世の春なのだ。その滑稽さに哀しみを覚えつつ、あまりの切実さが胸に刺さる。震えるほどのクライマックスだった。大傑作であろう。
ゆうすけ

ゆうすけ