垂直落下式サミング

博徒列伝の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

博徒列伝(1968年製作の映画)
4.0
鶴田浩二、若山富三郎、藤純子、北島三郎、高倉健と、オールスターでおくる東映任侠映画。小沢茂弘監督、笠原和夫脚本と、オーソドックスな任侠活劇に定評あるコンビである。
昭和初期の芝浦、ここで日雇い人夫の仕切りを行っている博徒一家のシマに礼儀をわきまえない愚連隊が乗り込んできて、やくざ同士の争いが勃発。その仲裁に立った悪徳組長に騙された組長が不利な手打ちの条件を飲んでしまったがために、やがて芝浦の利権を狙う卑劣な博徒一家との抗争に発展していくというストーリーだ。
オールスター顔見世興業らしく、各俳優に適切な見せ場が設けられている。
鶴田浩二は古い義理人情を重んじ、堅気から慕われ信頼されている正統派任侠。背筋の延びた優しさがあり、このような如何にも東映的な主人公の芝居はお手のものだ。
若山富三郎は、敵組織の組長の懐刀でありながら鶴田の男気を買っているのだが、敵同士という立場上、お互い親を守る渡世人として望まぬ戦いをすることになるライバル役。彼がどすっと座っているだけで、下に引っ張られるような重みがある。やはりパワー系だ。
遅れて登場する高倉健は、卑劣な計画に加担させられたことが我慢ならず、ここで退いては渡世の義理がたたないと、命を賭して鶴田に手を貸してくれる役。曲がったことが大嫌い!まさしく健さんである。
大木実は、最後まで無能な組長として描かれており、はっきりした見せ場がなく少々損な役回りを担っているが、事態を悪化させた挙げ句に途中退場するも、彼の死によって主人公たちの堪忍袋の緒が切れ、善玉・悪玉の全面衝突を招く決定的な動機となることで、見事に物語の引き立て役に回ったと言えるだろう。
ゲストのサブちゃんも、芝浦の日雇い人夫に流れ着いた血気盛んな筋ものを熱演。
藤純子は、紅一点として女の儚い恋心を演じて見せている。
他にも、若い衆を演じる町田京介が軽い身のこなしでケンカの仲裁に入ったり、菅原文太が座布団を出したり引っ込めたり、見所が多い作品だ。
愚連隊の頭は天津敏で、彼が率いる面々も個性豊かで見逃せない。
「人はいいが長の器でなかった男が悪玉の口車にのせられ、いいように扱われ続けるが、自分の立場に気付いた途端に用済みとされ、因縁をつけられて命を狙われる」というパターンは任侠映画では有りがちだが、このような話は繰り返し語られるべきもので、「映画はそうでなくては!」と美しいマンネリズムに胸を張ることができる。
義理と人情に支えられた任侠道の美しさを真っ向から謳いあげる中で、長ドスが乱れ踊る大殺陣のクライマックス。勧善懲悪と義理人情の正しさを疑いもなく描けた時代だからこその物語だ。