ダンクシー

アウトレイジ ビヨンドのダンクシーのレビュー・感想・評価

アウトレイジ ビヨンド(2012年製作の映画)
4.3
「ヤクザにも守んなきゃいけない道理があんだよ」

今作は小日向文世が演じる片岡が暗躍しかき乱す。続編なこともあってか、ストーリーとバイオレンス描写が優しかったと思う。そしてセリフがめちゃくちゃ多い。言葉の多さや説明的なのを嫌い、なるべく避けてきた北野武らしからぬ作品とも言える。しかし、ビヨンドではたけしは脚本力で真っ向勝負していた。前作では脚本も面白いのに、やたらと暴力描写ばかりがフィーチャーされ評価されていたのが不満だったのだろう。だからビヨンドでは暴力描写は最低限必要なものだけにし、自身の脚本力を見せつけてきた。
そして、花菱会に盃を貰いに行く時の怒号合戦、あまりにも見応えしかなかった。罵詈雑言の怒鳴り合いは本来観ていて気持ちのイイものではないが、ここまでされると気持ち良くならざるを得ない。いや、どう足掻いてもなってしまう。

てか、関係ないけど何も喋ってないのに高橋克典が恐ろしすぎて身震いしたよ...!たまんねぇ。


「ちょ待てコラァ...何抜かしとんじゃコラ。山王会とはお前のチンポの毛ぇ生える前から盃交わしとんのや。オォ?お前らみたいなチンピラの三下とられたぐらいで、戦争にでもなったら誰が責任取るんじゃボケ!」
「なーんもする前から花菱の後ろにコソコソ隠れようとし腐りやがってコラァ!戦争になったらワレ鉄砲玉になって真っ先に行ってくれるんやろうなぁ!?」


前作では自分より上の親分たちに散々振り回され見捨てられ、今度は出所後に片岡らの様々な思惑に利用され付き合わされる大友の心情を思うと、些か不憫に思わざるを得ない。だからこそ大友の中からジワジワと溢れ出す怒りと確信が劇中のキーポイントとなり、彼が作り出す展開がとても面白かった。
アウトレイジはヤクザの世界を描きつつ、北野武特有の悪意や悪趣味さを全面に押し出してエンタメとして昇華している作品で、前作ではそれが売りになっていて徹底的な悪を軸に暴力や死が容赦なく描かれているのに対し、本作では勿論それらもあるのだが新しい要素として悪人達が見せる弱さが追加されていた。恐ろしい悪人たちにも、弱い部分がある。前作では誰もが強気で情け無用、誰だろうが怖くねぇよ!といったスタンスが見受けられたが、ビヨンドでは大友や石原や加藤など、様々な悪人たちに弱さが見えた。ビビりもだし、衰えもそうだし、迷いも保身もそうだ。これがちゃんとあったからより深みが出たというか、ただのバイオレンスエンタメにならなかったと思う。

「やれよコノヤロウ!早くやれ!おもちゃかこれ!?」

義理や筋をいくら通そうが、皆死んでいった。前作を含め、これは北野武の作品に共通していることだ。しかしビヨンドではラストに大きな変化があった。これこそが最も描きたかったことだろう。正義を掲げながらも実は誰よりも狡賢く悪い立ち回りをする輩。味方のフリをして、言葉巧みに操り状況や展開を掌の上で動かす。例え自分の身内が犠牲になろうが、一般市民が巻き込まれようが、どうでもいい。自分の利益だけを求め追求するクズ。さも闇社会と戦う正義のようで、誰よりもタチが悪く汚い者。
ビヨンドのラストは唐突だし、まさかのまさかで驚いた人も多いだろう。しかしこれこそがたけしの意図していたことであり、常日頃感じていた事だと思う。性質上、ヤクザ同士の関係と違って絶対に切れない関係性を断ち切ってしまうのは、普通ありえないしだからこそ驚いたのだが今までの流れを考えるとあまりにも相応しいラストだ。

p.s. 石原の処刑方法、恐ろしすぎるし面白すぎる。ピッチングマシンを利用した無限地獄、最高っす。ヤバすぎ!あれ何回でもリピートできる笑
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