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男はつらいよ 翔んでる寅次郎のbluetokyoのレビュー・感想・評価

2.9
うーむ、やはり、山田洋次監督は、特権階級が凄く嫌いなのだ。だったら、そういう人物を取り上げなければいいのに、と思ってしまうが、実際、監督とはいえ、そういう権限はないのだろう。
せっかく、名優、桃井かおりさんが起用されたのに、演じた入江ひとみという女性は、おいちゃんもまじ怒りするぐらいの人物だったりする。いままでのなかでも最悪のマドンナ。特権階級の金持ちの女はこんな馬鹿な女なんだよ、ということを表現しているのか。
第19作寅次郎と殿様に出てくるバカ殿さまと同じような感じだ。

あと。前作で出てきた、凄味のある寅さんが、今作でも登場するが、どうも、当初の三枚目の寅さんキャラとの整合性がとれていないようにも思う。

簡単にあらすじ。
博さんの勤める朝日印刷の社員の結婚式のシーンから始まる。
寅さん、久しぶりにとらやに帰って来ると、さくらさんの息子の満男の作文が褒められたということで、寅さん、その作文を声に出して読んでやる。
作文には、寅さん本人のことが、結婚できないことでまわりの人々が嘆いているおじさん、と書かれてあった。
寅さん、怒って旅に出る。

北海道である。寅さんは、物思いにふけりつつ湖を眺めていた。すると、一台の車が止まり、入江ひとみが、おじさん、車に乗っていかない、と声をかけてきた。
寅さん、若い女性が見ず知らずの男を車に乗せようなんて、考えるんじゃない、と教え諭すのだった。

しばらくして、入江ひとみの車がガス欠で動かなくなったとき、通り掛かったある男の車に乗せてもらった。
案の定、入江ひとみはその男にレイプされそうになる。隙を見て、車の外に逃げ出し、立っていた男に助けを求めた。その男は寅さんだった。

ほら、だから言わんこっちゃない、などと言って、とりあえず、旅館に泊まることにする。なんと、その旅館の若主人は、入江ひとみをレイプしようとした男だった。警察に行こうかなあ、などと脅して、部屋を取ってもらった。

入江ひとみは、結婚することになっていて、だが、相手はいい人だが、あまり気乗りがしないので、旅をしていると言った。

入江ひとみの結婚式。着物からウエディングドレスにお色直しをしたとき、入江ひとみは逃げ出し、タクシーに乗り込んだ。行き先は寅さんに聞いたとらやだった。

とらやに着いたとき、ちょうど、寅さんが来ていた。

このときのタクシー代は、もちろん、とらや持ち(さくらさん?)である。入江ひとみは金持ちなので、タクシー代ぐらいのカネは、お菓子を買うぐらいのものかもしれないが、それは本人自身のことであって、第三者は違う。いくらアホでも、いい歳なんだから、そのぐらいはわかるはずだ。このあとになんのフォロー、たとえば、母親が支払ったり、の描写がないので、そのまま踏み倒している。

そのあと、母親が迎えに来るが、入江ひとみはごにょごにょ言うばかりで埒が明かないので、母親は、入江ひとみをとらやに残して帰ってしまう。
とらやにとっては、招かざる客なわけだが、入江ひとみはまったく平気なのである。

そんなことをやっているうちに、結婚相手の小柳邦夫が、とらやにやって来る。この期に及んで迎えにきたのか、なにしに来たのか、さっぱりわからない。
そもそも、婚姻届けを出しているのか、不明なのだ。ちなみに、小柳邦夫は、ある会社の社長の息子、ということである。

立場上、婚姻届けを結婚式の後で出すというのは、考えられない。いや、それもそうだが、新婚旅行はどうなっているのだろう。間違いなく海外旅行になるはずだけど、もうキャンセルになっているはずだ。そういうことに対する描写はまるでないのである。

結婚したままになっているのか、離婚届けをすぐに出したのか。離婚届を出したのかもしれない。だとすると、おそろしく迷惑な話だ。

入江ひとみは、自分のことしか考えない、自己中女なわけだが、小柳邦夫も、よくわからない。わからないのは、演技経験のない布施明さんがキャスティングされているということもなのだが。意味不明な宇宙人みたいな人間ということなのだろうか。

入江ひとみは、何しに来たんだ、てめえは、みたいな目付きで睨むと、そのまま、ぷいと二階に上がってしまう。

小柳邦夫が、なぜ、入江ひとみを好きなのか、さっぱりわからない。そこに至る描写がない(見合いなのだけど)以前に、説明を放棄してしまっている。

考えられるとすれば、結婚式をぶっ壊されて、もともと繊細の精神だったわけで、人格が崩壊してしまったということかな。それで、入江ひとみに、人格を支配されてしまったのだ。

寅さんが、慰めるためだかで、邦夫に話を聞いている。それによると、
結婚式以来、毎日、入江ひとみのことを考えて暮らしてる、ということだ。とすると、やはり、結婚式が引き金になっていると考えられる。

そのあと、今度は、邦夫が、入江ひとみを喫茶店に呼び出す。

入江ひとみ、自分は、自分の力で自活する。あなたは、会社の社長の息子なので関係ない、と言う。自分の力で自活、白い白馬みたいに意味が重複している。こいつ、大丈夫か? というレベル。というより、制作者サイドがセリフを真剣に考えていないのでは、と思えてくる。
それ以前に、結婚の話からぶっ飛び過ぎだ。
結婚式からとんずらしてそうなったのか、最初からそう思っていたからなのか、なにも考えていないのだろう。

邦夫の答え。自分も会社、辞めて来たんだ。

この、ぶっ飛び過ぎの展開はなんだろう。入江ひとみもおかしいが、邦夫も負けずにおかしい。おかしいというよりも脈絡がなさ過ぎる。

邦夫は家に帰る。といっても、実家は飛び出してきてしまったらしい。いまは、木造アパートの一室である。部屋に入ると妹の京子が待っていた。
京子が、実家から着替えなどを持って来てくれているらしい。

妹が兄を心配して支えているという構図は、まさに、寅さんとさくらさんなわけだが、とすると、邦夫は寅さんの分身のような存在である。
あるいは、当初はその予定だったのかもしれない。
そもそも、俳優ではない布施明さんには、そういう役の演技は無理だと思える。

それはそれとしても、もし、寅さんの分身とすれば、鏡のような存在なのかもしれない。邦夫は、すぐに、地道な自動車修理工場に就職して働き始めるのだ。部屋を見た妹が汚いわねと言うと、これからきれいになっていくさ、と答えるのだが、これは売り言葉に買い言葉、ではなく本当なのかもしれない。
なぜ、自動車修理工場なのかというと、単純に社員募集のチラシを見たのだろう。自動車修理が好きだったら、そういう伏線があるはずだ。いかにも機械いじりが好きだというようなシーンを付け足すのは簡単なのに、そうしないのは、地道にすぐできる職という風に考えたのだろう。

なぜか、入江ひとみは、実家に帰って、母親と話している。

入江ひとみは、なぜ、このような行動を取ったのか説明する。

入江ひとみは言う。自分は幸せになりたいから。

母親は、入江ひとみが幸せになるように、しているじゃないの、と答える。

入江ひとみは、母親の考える幸せと、自分の考える幸せは違う、と答える。

では、入江ひとみの考える幸せというのは、どんなものだろう。まるで描写がないのでわからない。というよりも、実は、そんな幸せは存在しないのである。

それは冒頭に出てくる。入江ひとみの幸せというのは、寅さんの幸せなのだ。だから、寅さんに話し掛け、車に乗っていけ、と誘ったのだ。これは、歴代マドンナも抱いている、寅さんに惹かれる感情でもある。何ものにもとらわれず、場所にもとらわれずに、各地をぶらぶらと旅している。
だが、寅さんは言った、若い女が……、危ない、と。

母親はさらに言う。あなたは邦男さんまでだめにしちゃったのよ。それなのに幸せになりたいなんて、よく言えるわね。

ここで、入江ひとみは、ようやく、気付くわけだ。入江ひとみの求めている幸せは、絶対、手に入らない幸せなのだと。

ということで、入江ひとみは、邦夫の部屋まで行き、結婚を承諾するのだ。結局、それは、母親の幸せと同じ幸せなのではあるけど。

結婚式。邦夫は歌を歌う。布施明さんなので、そうなるのだろうけど。

♪きらびやかなものに惑わされないで  どうか僕のところへやって来ておくれ

きらびやかなもの、というのは、憧れの寅さんのことだろう。僕のところ、というのは、地道な邦夫の生活のことだろう。

寅さんは本当は、すぐに、旅に出たかったのだが、入江ひとみの頼みで仲人をしなければならない羽目に陥る。
これは、入江ひとみと邦夫の仲を引き裂こうとした罰であると思える。
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