高橋早苗

ユナイテッド93の高橋早苗のレビュー・感想・評価

ユナイテッド93(2006年製作の映画)
3.6
このタイトルにピンとくる方は
あの日が強烈に残っている方なのだろう

そんな方からは怒られるかもしれないが
あの日
ニュースでしか知らなかった私は
単純に興味があった。

あの時ただ一機だけ
どこに突っ込むことなく
緑の中に墜ちた飛行機

あの中で何があったか。

☆☆★

ユナイテッド93便は
予定より少し遅れて
ニューアーク空港を飛びたつ

離陸時刻が押した以外には何もない
穏やかなフライト

シートベルトを外し
乗客たちは朝食をとり始め
コックピットにも朝食が届けられた頃
地上では
貿易センタービルが煙を上げていた


管制塔も
管制センターも
航空局も
事態を把握しきれずに

ハイジャック機は4機とも5機とも伝えられ
パニックに陥る中
また1機、ビルに激突する


静まりかえる管制室
…93便でテロリストたちが動きだしたのは
このことが“事故として”コックピットに伝えられた
すぐ後だった

★★☆


・・・“動きだす”までの経過は
先がわかっているだけに
つらい

そして
時がたつほどに大きくなる
地上の慌てぶりは
歯がゆい

事実が
後から後からやってくる。


・・・客室乗務員がひとり捕らえられ
客室後部に逃げた乗客たちの前には
体に爆弾を巻きつけた男が立ちふさがる

刺された客の手当てをする乗務員は
カーテン越しにパイロットの姿を見つけ
コックピットが乗っ取られたことを知る


・・・地上が
ハイジャック機を特定しようと必死な頃
乗客たちは機内電話を使い
家族や大切な人へ連絡をとっていた

そして
貿易センタービルに2機
国防総省に1機の旅客機が墜ちたと
知らされる


 「空港へ戻る」なんて嘘だ
 この飛行機もどこかへ向かっている・・・

そう悟った時
誰からともなく動き出した


電話で家族に別れを告げたおばさんが
隣の席の若い娘に
「使いなさい」と携帯を渡すシーン

彼女は泣きながら話す
「隣の親切な人が貸してくれたの」
・・・携帯がつながるほど
旅客機の高度は落ちているのがわかる

金庫のナンバーと
遺書のありかを告げる老夫婦

無事に帰れたら仕事は辞めるわ
子ども達をお願い
と泣き出す客室乗務員・・・


皆、最後だと
わかっている

誰もが
「愛してる」と
「さよなら」を告げる・・・


ナイフ
フォーク
カバン
熱湯
消火器
ワゴン・・・

あらゆる物を武器にして
立ち向かう乗客乗員たち・・・


テロや戦争という状況下では
自分以外の誰かを想う気持ちなど
抜け落ちてしまうのだろう。

ここに居合わせた人たちには
それがあった


言いなりになってどこかに墜ちて
誰かを巻き添えにしてしまうより、奪われた操縦桿を
奪い返す方を選んだ。


その想いは
一切の飾りを排した映像に見てとれる

ここには、見覚えのある
名の知れた俳優などいない

エンドロールには
“HERSELF”
“HIMSELF”
のキャストが目立つ
実際に当日勤務していた者もいるという

残った人たちの想いも
ここにはある。
高橋早苗

高橋早苗