K助

ユナイテッド93のK助のレビュー・感想・評価

ユナイテッド93(2006年製作の映画)
3.2
「混迷の21世紀」、その始まりを予感させるようなアメリカ同時多発テロでハイジャックされた旅客機4機のうちの1機、唯一テロリストの手によって目標に突入しなかったユナイテッド航空93便の離陸から墜落までを、ドキュメンタリー風に描いた作品。

前半部は空港や航空管制センター、空軍基地を舞台に、多発テロが起きた際の状況を説明。後半部はユナイテッド航空93便機内での搭乗員、乗客、そしてテロリストを描く。
全体的に抑えた演出で、映画にありがちな説明やお涙ちょうだいのシーンはほとんど無く、カメラはほぼ現場に固定。スポットの当たるキャラクターもおらず、登場人物がどのような人生を送って来たのかの説明どころか、名前さえも明らかにされず、その場その場にいた人間の行動を写している。テロリストが何を望んで行動を起こしたかの説明さえ無く、本当にその場に居合わせたかのような感覚に陥りながら物語は進み、そして飛行機は墜落する。

この事件以降、イスラム原理主義者により世界は混沌としてゆくのだが、劇中でも原理主義者とのコミニュケーションは成り立っていない。テロリストは乗客に語りかけないし、乗客や搭乗員もテロリストへは語りかけない。そして、テロリストは絶対の神への帰依を唱えるばかり。完全に断絶した存在による、断絶した存在への死の強要。恐ろしい。

閑話休題。
劇中、客室乗務員の女性がテロリストに脅されると、あっさりと操縦席への扉を開けてしまうシーン。観ていた時は「乗客の命を預かる搭乗員として、それはどうなのよ」と呆れたのだが、その客室乗務員の女性、離陸する前の同僚との何気ない会話で、子供が生まれたばかりな事を語っているんだよね。
子供がいるから死にたくない。
死にたくないから操縦席への扉を開ける。
芸の細かい脚本だなぁ、と感心した次第。
K助

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