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黒い画集 あるサラリーマンの証言のkojikojiのレビュー・感想・評価

3.7
1960年 監督:堀川弘通 脚本:橋本忍
2022.09.17視聴-424
● 小林桂樹(石野)
●原知佐子(梅谷)

 松本清張原作となると、邦画においては群を抜いたサスペンス映画になる。なぜか一味も二味も違っている。観客はその世界にすっかり放り込まれたような気分になる。
 この映画では、観客はいつの間にやら自分が不倫をし、嘘をついて、怯えて、どうしたらいいのか迷い続けている。完全に主人公になって考えている。それだけにストーリーの展開が、結末が、怖い。
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 課長石野は自分の部下梅谷と不倫をしている。ある夜彼女のアパートの前で近所の知人杉山にばったりと会い、思わず会釈をしてしまう。
 ところが、杉山が全く離れた場所で同時刻に起きた殺人事件の犯人として逮捕される。杉山はその時刻には石野の会っており殺人事件とは関係ない、石野に聞いて欲しいと言う。だが石野は不倫を隠すために、その時刻は映画を見ていて、杉山には会っていないと裁判で偽証する。

 不倫を隠すために偽証せざるを得ないサラリーマンの苦悩を小林桂樹が熱演する。
 警察もマスコミも証言者の個人事情は全く考慮しない時代だったのだろう、主人公は嘘をつかざるを得ない状況に追い詰められる。

 嘘から始まった行為が次々に新たな状況を生み出し、それがさらに違った状況を作り出す。そしてにっちもさっちも行かなくなって、最後は爆発するしかなくなる。犯罪が犯罪を生む清張作品の得意の分野。

 松本清張原作、橋本忍の脚本は後年、言わずと知れたあの名作「砂の器」を生み出す。
 このコンビの「さえ」を堪能できる作品。必見。
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