月うさぎ

理想の女(ひと)の月うさぎのレビュー・感想・評価

理想の女(ひと)(2004年製作の映画)
4.0
オスカー・ワイルドの戯曲『ウィンダミア卿夫人の扇』(Lady Windermere's Fan)の映画化作品。
アレンジが上手くて、まったくあっぱれの映画と言えます。 
オチの付け方のスマートさが素敵でした。
原作の感動をそのままに、映画ならではのカタルシスも付け加えていて、置いてきぼりにされない優しさというか、サービス精神を感じます。

原作はヴィクトリア朝時代の英国、貴族社会の社交界のお話。
若きヒロインのマーガレットは子持ちの妻ですし、お芝居ですから舞台はすべて「家の中」です。
そこを南イタリアのアマルフィー海岸でリゾートする有閑階級という設定に変え、主人公夫婦はアメリカ人。
誘惑者は夫君の友人で旧知の仲ではなく一目ぼれ設定に変更。
アーリン夫人は最初からタカリに来ていることが明らかになっています。

数々の変更にもかかわらず、原作のエッセンスがちゃんと生きています。
なんてうまくいった脚本なんでしょう!
原作のセリフも大事な所はちゃんと残していますし、感動のツボもわきまえています。
人物をさらに魅力的にし、絵としても魅せます。

もっともほめるべきはヘレン・ハントの演技でしょう。
彼女の存在の美しさがなければこの映画の意味は失われたことでしょう。

トム・ウィルキンソン演じる恋に堕ちてゆくタピィ(オーガスタス卿)のかわいらしさといったら!
彼もとっても巧いですね。
アーリン夫人が「マイ・タピィ…」とほほ笑むところなんかもう素晴らしいの一言。
これは原作を凌駕しています。

唯一残念なのはヒロインのスカーレット・ヨハンソンに可憐さを感じられない点。
もちろん綺麗で可愛いですよ。
ただ、幼い時に母と死に分かれ、お堅い育ちのため世間知らずで純情なうぶい女の子、に全然見えないのです。
夫が外の風に当ててはいけないと大事にしてしまう危うさどころか、不機嫌そうな口元なんかはねっ返りの現代っ子にしかみえません。
この役は顔が綺麗なら演技力とかあまりいらなそうな役なので、もっと適役がいそうなものです。彼女にはもっと強い役が似合う気がします。
→(と、最初観た当時思ったのですが、スカーレット・ヨハンソン、この後はお強い女を次々演じてますね。そっちが似合ってますよ、やはり)


原題の A Good Womanは「理想の女」というより「善良な女」が正解だと思います。

原作のラストの台詞にこの言葉があります
LORD WINDERMERE: Well, you are certainly marrying a very clever woman!
LADY WINDERMERE: (Taking her husband's hand.) Ah, you're marrying a very good woman!

聡明な女性と表現する夫に対し妻は「善良な」女性だと答えるのでした。
月うさぎ

月うさぎ