三隅炎雄

ぼくどうして涙がでるのの三隅炎雄のレビュー・感想・評価

ぼくどうして涙がでるの(1965年製作の映画)
4.0
原作は僧帽弁閉鎖不全症を患った妹紀子の闘病生活を綴った伊藤文學の同名著作。それを森永健次郎が吉田憲二脚本、十朱幸代主演で映画化した。吉永小百合の映画等でも記録映画的なカメラワークを試みる森永が、ここでは最初から最後までセミドキュメンタリー・スタイルを貫くことで、難病物にありがちな安易な情緒への傾斜を極力抑えこんでいる。大手のこの手の商業映画としては相当踏ん張った力作ではなかろうか。
ドラマの中に実際の病院にロケした手術や重症患者病床の記録が巧みに混入されて、その映像の生々しさに感情が暗く揺さぶられる。同時にそういった現実の重さを描くリアリズムだけではなく、映画が渡辺宙明の音楽を伴いながら、時として彼岸へ誘うような不穏な気配を見せるのが面白い。ここは難病物から幻想劇へ展開する傑作『真白き富士の嶺』の監督らしいと思った。特に主人公と看護師が話す階段のショットが不気味で心に残る。最後の多くを語らぬ演出が美しい。伊東文學役は佐藤英夫。
三隅炎雄

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