翼

スパイ・ゲームの翼のネタバレレビュー・内容・結末

スパイ・ゲーム(2001年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

まずタイトルで死ぬほど損している本作。
元来スパイ活動は暗躍する役割。本作はその本分、正統派スパイ映画なのだが、007にMIにと先行するスパイ達がド派手なドンパチ野郎ばかりなので『スパイのゲーム』という単語のラフさから伝わる第一印象はそんなドキドキ頭脳戦映画かなくらいのお気楽なイメージだった。実際は裏腹にビターでハードボイルドな大人向け作品なわけで。ドキドキ頭脳戦はあながち間違ってはいないのだが、それはフィクサーとしての老獪さと人情が愛弟子を救うというバリ熱い人情味の物語のごく一面でしかない。ミュア(ロバレ)の教えが「ゲームと思って割り切れ、観察し俯瞰しろ」という意味と観た人はわかるわけだが、ビショップ(ブラピ)救出作戦がゲームなのかと言われるとなんだかしっくりこない。これはきっと「ゲーム」という単語が持つ日米のイメージの相違かな。それにしてもトップガンといい、トニースコットはタイトルを大雑把に付けすぎるイメージがある。

本作は二度目の鑑賞。十代の時に観てるはずなんだけど、屋上の空撮とチューインガム貰って喜ぶ囚人しか覚えてなかったことが悔やまれる…
何故かと言えばこれはブラピ視点ではなくロバレ視点で楽しむ作品だから。「教え子に自信のナレッジの全てを託したいオジさん」の欲望の映像化。視座が指導者側になることで渋味や苦味といった大人向けの旨味が引き立つ仕掛けになっている。視聴年齢が10代→30代でこんなに変わるから、それこそミュアよろしく定年間際の年代になったらまた違って感じられるのかもしれない。子供に家業を継がせたい親父さんとか刺さりまくるんだろうなぁ

前半、アセット(現地の協力者)を切り捨てろとビショップに命令を下し衝突しながら、後半では地位も金も全て投げ打って愛弟子の救出作戦に身を投じるミュアのダブスタ。
セオリーと経験則とで誰もが折り合いをつけ切り捨てるべきとわかっているところを全霊を以て守りぬかんとする姿は本当に美しく、作戦後の二人の再会を敢えて描かないところが本作のハードボイルドな魅力そのもの。
ディナー作戦と聞いて全てを察したビショップが、殴られ腫れたボッコボコの顔面で瞳を潤ませる表情は本作が描く師弟愛の全てを物語っているし、退職金含めた全財産を投じて救助されたビショップはミュアになんと礼を言うのか、二人の関係性を知る私たちは想像してついニヤニヤしてしまう。その愉しい愉しい余韻を残して幕を引く本作は紛れもない名作だ。
翼