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四十七人の刺客の教授のレビュー・感想・評価

四十七人の刺客(1994年製作の映画)
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時代劇は好きだし、疲れた時には安心して観ることができるジャンルでもあるし、設定上、メジャーで大作な日本映画にありがちな「大仰」な演技も成立するという意味で「安パイ」なものであると思いきや、なかなか困った作品だった。

序盤は、その錚々たる名優揃いで楽しい。
とにかく俳優たちの「滑舌の良さ」と「声の響き」の美しさを堪能。
概ね、演技が安定しているのと、映像的にも素晴らしい美術と撮影で「映画」というスケール感は担保されている。

比較的若手の部類に入る中井貴一の色部又四郎役は、不敵な上司である柳沢吉保(石坂浩二)との演技的な緊張感もたまらない。
また導入としての「吉良邸」の見取り図を見ながら作戦を立てるという、大胆な省略によってストーリーをいちいち説明せずに進行していくテンポの良さはさすが市川崑演出と思える。

しかし全く物語に機能しないワンシーンだけの出演となるきよ(黒木瞳)とのロマンスに面食らうし、嫌な予感がよぎる。
予感は的中し、そこから物語の全貌が見えてくることによってより緊張感が削がれてくる。

まず映像が特に個性的な市川崑と大石内蔵助を演じる高倉健との相性の悪さ。
錚々たる名優の中で圧倒的なまでのカリスマ性が際立ち過ぎて世界観と、高倉健のスター然とした画の持たせ方がチグハグになってしまっている。
高倉健は画になる美しさカッコ良さに違いないが、お馴染みの「高倉健」になってしまって映画自体が止まってしまう。

加えて、肝心の殺陣(アクション)が引き画で血糊も出たり出なかったりとで、統一性がなく、鈍重な動きも加わって間が抜けている。
終盤の吉良邸での「アトラクション」も、まるで「ホームアローン」のような、まるでコメディ映画のようなのだが、至って真面目にやっているので気まずくなる。

さらに輪をかけて、かる(宮沢りえ)とのロマンスも、ちっとも良い話には着地せず、正妻であるりく(浅岡ルリ子)には「死にに行く」と告げつつ、かるには「帰ってくる」と約束する。本妻と妾には、言い分や求めているものが違うというのはあるのだろうが、理屈があまりわからなかった。
何より高倉健が演じる上で、あまり感情が見えないハードボイルド的な作風で、妙にジェームズ・ボンドみたいなことをご都合主義的にやられても単に「合わない」という感じが残る。

ただなんというか、宮沢りえの芝居の筋の良さやエロティシズムはとても良かった。少なくとも恋に落ちるまでは。
同様に、ほぼチョイ役で出ている清水美沙や古手川祐子などもそうだが、東宝映画的な文芸映画風の味わいと、妙に艶かしい市川崑っぽさみたいなのは内容に関係なく「美」がちゃんと感じられた。

ただ硬質な情報戦の面白さはありつつ、そこまで手数が多くないので結果物足りない感じや、何より武士にとっての「安寧」の時代が続いている時勢で、少数の赤穂浪士たちが、名うての米沢藩との死闘を行うに当たっては「軍事訓練」と思しき描写がないのは致命的。
大石内蔵助ですら「初めて人を斬った」と同様している描写があるので、余計にもったいない。

まだまだかろうじて時代劇ノウハウのある後期の時代だからこそ、時代劇独自のエンタメ性を活かせる素材はあっても、やはり全体的に中途半端さとキレのない展開が続くので全体的には失敗作だと思う。
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