【2020年11月11日】
2023年3月13日、東京高裁が、袴田事件の再審の開始を認めた。
やっとかという感じだ。
この作品を観たのは、今はもうなくなった「銀座シネパトス」で晴海通りの古い地下にある、それこそ、古い映画館だった。
もう10年以上前のことになる。
この作品は、この裁判の裁判官のひとりだった熊本典道さんの視点から描かれたものだが、熊本さんは2020年11月11日、この再審開始を認める司法判断を待たずに亡くなってしまった。
熊本さんは、袴田事件裁判の3人の裁判官のひとりだったが、この捜査、取り調べ、立件のプロセスへの違和感、裁判官の公正とは考えられなかった判断への違和感で唯一袴田被告は無罪と主張し、裁判長ともう一人の判事と対立、説得を試みたものの、受け入れてもらうことは叶わず、自ら死刑判決文を書かざるを得なかった。
その後、裁判官を辞して、弁護士となるも様々な病気を患い、更に良心の呵責もあってかうつ病や幻覚幻聴に悩まされるようになり、やがて行方不明になったこともあったようだ。本人は、海外も含めて自殺に適した場所を求めていたことや、ホームレス同然の生活を送っていたと告白している。
その後、静岡地裁で袴田被告の死刑を主張した他の裁判官二人が死去していたことを確認し、元担当判事として袴田被告の無実を訴えることになる。2007年のことだ。
この映画の公開は2010年。
高橋伴明監督には、昨年の「夜明けまでバス停で」同様拍手を送りたくなったのを思い出した。
そして、なんといっても、こうした役を演じさせたら萩原聖人の右に出るものはいないと思わせられた。
熊本さんの苦悩をひしひしと感じさせられた。
熊本さんは、映画の公開年の時点では、生活保護を受けながら暮らしていたらしい。
ガンを患い、認知症状も出ていたようだ。
そして、その後、熊本さんは、2018年、入院中の病院で袴田さんと対面し、再審請求のための陳述書を提出する。
だが、再審が認められたのは、彼が亡くなってから3年近い年月が経ってからだ。
日本の司法制度と僕たちはどう向き合うべきか、法的な正義とは何なのか、裁判は公正公平なのか、公正公平であるためにはどうするべきか、警察権力の暴力とどう向き合うのか、そして、無実と思われる罪で数十年にわたり死刑囚として捕らえられた人にどう向き合うのか、苦悩しひれ伏しても立ち上がり、更に苦悩し倒れても立ち上がり、できる最大限のことをして命の炎を燃やし尽くした、この熊本典道さんの人生とどう向き合うべきか、ひたすら考えさせられる作品だと思う。