みかんぼうや

少年のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

少年(1969年製作の映画)
3.5
【「万引き家族」的だがそのテーマは全く異なる。当たり屋を“家業”とした歪んだ家族を描く悲惨なるロードムービー】

「太陽を盗んだ男」、「家族ゲーム」、「復讐するは我にあり」、「泥の河」、「お引越し」・・・それぞれジャンルもストーリーも大きく異なる作品たちだけど、これらの邦画が持つ、じめっとした空気感と独特な怪しさと脆さと歪みを内包した映画としての“色気”(エロスという意味ではないです)がとても好きで、本作にも何かその“邦画の色気”を感じずにはいられません。

物語は、日本全国を転々とし当たり屋を“仕事”といって行う家族の話。最初は親が当たり屋をやっていて、困窮した生活が続く中、次第に息子にも当たり屋をさせて生計を立てていくという話で、形は違いますが「万引き家族」に通ずるものがあります。

ただ、通ずるものはありつつも、その根底にある志向は大きく異なります。「万引き家族」は社会格差に対する風刺的フィルターを通して「家族とは何か?」を問う疑似家族による絆の物語であり是枝監督の人情味を垣間見ることができますが、本作は本物の家族でありながら、生計を立てるための“道具”として子どもを使い続ける悲惨な大人都合の世界を大島渚の冷ややかな視点で描いています。それはただ冷たいにあらず生きるためにはその最悪の環境が“当たり前”だとも思っている他の家庭や世界を知らない子どもたちへの同情の念をも感じます。

映画としては、そのユニークな設定に対して、その後の展開、そして作品全体を通しての演出は意外とあっさりしています。もっと色々な出来事が起きるのだろうと期待していたら、この家族の日本での転々とした移動と当たり屋という“仕事”への一部の葛藤を淡々と描き、その設定ほどの奇想天外な展開にはなりません。

その点では、ストーリー面では若干の“物足りなさ”を感じたのですが、実はそれはこの作品に対する私の理解の浅さであったと観終わった後に分かります。この作品、実際の事件をもとにした実話ベースの作品だったのです。前情報無しで観たので、無意識に「こんなことあるわけない」と思っていたのか、完全にフィクションだと思っていました。

実話と知ると、途端にこの作品の捉え方も一変します。こんな無茶苦茶なことが実際に起きていたなんて・・・こんな悲惨な人生経験を経て、その後、この子どもたちはどのように成長していったのだろう。今、どのように生きているのだろう。そして、当時、この子どもたちはそれでもこの両親のことが好きだったのだろうか?両親も子どもを愛する気持ちはあったのか?実際のこの家族のそれぞれの心情に関する疑問が止まりません。

邦画界の巨匠大島渚監督の作品は、20年以上前に観た「御法度」以来2本目。私は晩年のテレビ番組でいつも怒っている頑固者的な印象ばかりが頭にあり、なんとなく彼の作品を遠ざけていましたが、本作を観て、もう少し色々な作品を観てみようと思いました。
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