カラン

バードのカランのレビュー・感想・評価

バード(1988年製作の映画)
4.5
クリント・イーストウッドは1970年代に監督業に乗り出して以来、40本ほど撮っているそうである。それだけでもほとんどレジェンド級であるが、数々の受賞をしてアカデミー作品賞を2度も獲っている。そんな彼のフィルモグラフィはそこそこの数を観たが、どれもまずまず良かった。『アメリカン・スナイパー』(2014)は中でもよかった記憶があるが、本作『バード』が今のところベストか。

本作の主人公チャーリー・パーカーは「ビー・バップ (bebop)」と呼ばれる、即興で転調を繰り返しながらジャムセッションを行うスタイルで、ムード音楽やダンスのBGMの水準から、バッハやベートヴェンの楽曲のように、それそのものを鑑賞する純粋音楽の水準へと、JAZZを推し進めたと言われているアルトサックス奏者である。

撮影は2000年くらいまでクリント・イーストウッドの映画で撮影監督を務めたジャック・N・グリーンである。非常に暗がりが多い。雨が降っていることが多く、闇の窓を濡らす雨の輝きを捉えるためなのか、演奏がバータイムであるからなのか、暗がりのシーンが多い。JAZZもさまざまであろうが、様々なブルースやゴスペルやソウルやファンクと同様に、ブラックミュージックには曰く定義しがたいがはっきりとそれだと感じる、独特のグルーブとビートがある。

デイミアン・チャゼルのJAZZの映画が一時期流行っていたが、本作にはそのようなブラックミュージックの個性を掠め取るようなやり口は無縁である。全編を音楽が満たしており、その音楽はチャーリー・パーカーの録音からサックスの音を抜きだして、新しく録音したバンドの音と合成したようだ。うわべの真似事にしないために、チャーリー・パーカーの魂を映画に吹き込む必要があったから、チャーリー・パーカーの旧録を使ったのであろう。

サウンドに違和感をさして感じないのはチャーリー・パーカーを大して知らないからだと言われたら、その通りである。しかし、バックバンドと違和感は感じないが、幾分か乾いており、最新の録音のようにはサックスの音エネルギーの充溢を感じなかった。一長一短あるものだろう。

チャーリー・パーカーが旧友の演奏会に忍び込んで、純粋音楽へのチャレンジ精神を失くし、聴衆の望むものを提供する堕落したサックスの演奏を聴いて、茫然とした表情でたずねる。「なぜずっと同じ調性なんだ?」その答えは「ロックだからだよ。」である。もちろんその真意は、ロックは単調であるということではない。自分の音楽なんていう拘りはなく、客が望むものを提供するショービジネスをやっているだけだ、ということである。

デイミアン・チャゼルの仮想JAZZのスポコン映画は「へたくそはロックをやれ」とかいう内容の張り紙を、ジュリアードらしき音楽院の壁に貼っていた。本作を観ると、音楽ファンにはかなり苛立だしいその張り紙が、いったいどこから来たものなのか分かるし、苛立つ必要もなかったことがよく理解できる。ただの真似だったのだ、と。




レンタルDVD。5.1chリマスターは素晴らしい出来である。本作の録音のことを厳しく言ったが、劇場でそれを聴き分けることはできないだろう。

55円宅配GEO、20分の8。
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