ジュン

バードのジュンのレビュー・感想・評価

バード(1988年製作の映画)
5.0
久々の傑作。才能を惜しみなく出して突っ走って生きること、勝ち続けること、一度も倒れないこと、真のスターであり続けること、これらがすべてがどれほど困難なことか!そしてそんな人生をバードが生きる。演奏する音は、すべて生のエネルギーがこもっていて熱を持った音だったんだろうなと思う。バードは生そのものだった。わたしはなぜだか『許されざる者』とか『バード』とかつらくて厳しい映画が好きな傾向がある。生きることに精一杯で何も惜しまず出し続け勝ち続けひた走る。魂に洋服着せたような人。それはつらいのだろうか。NYから引っ越したとき、庭の子どもたちを見ながらリードを削っているその一瞬のショットが脳裏に焼きついている。あんなささやかなことに感動するなんて。バードは34歳で死ぬまで全速力で人生をひた走った。歳だからとか病気だからとかは無縁の世界で苦しくても痛くても大汗かいて笑っていた。そして時に泣いた。すべての瞬間にバードは生きる力を音楽でチャージしようとしていた。肉体も精神もぼろぼろでいつ死んでもおかしい人にこそ、そのひたむきな思いが胸の奥底に宿っている。だれがチャージするのをやめろと言えようか。バードはマジックのようなお笑いのテレビを見ながらソファで笑って死ぬ。笑いながら。人はだれでも死ぬまでに1度くらいは自然や永遠に思いを馳せる。そしてきっと人間というものは、なにかひとつくらいは使命のようなを持って生まれてきたとわたしだけではなくきっとたくさんの人が思うような気がしている。わたしはまだ見つけられていないけど、人は一生のうちで命をかけても果たさなければいけないものがあると思っている。もちろんそれは合理的だとか役立つとかという次元とは天と地ほどの差があること。きっとバードは演奏することで自分の霊と魂の、浄化作業をしていたのかもしれない。バードは人を楽しませたり喜ばせたかったんだろう。自分はぼろぼろでもみんな笑っていてほしかったんだろう。そしてそのことを人生最期の瞬間にテレビで「自分もこんなふうだったのかな」なんて思いながら、臨終の場にあってこの使命に気づいたんであったことを祈る。
ジュン

ジュン