シズヲ

悪魔のいけにえのシズヲのレビュー・感想・評価

悪魔のいけにえ(1974年製作の映画)
3.9
ザ・テキサス・チェーンソー・マサクゥル!!!直球の原題ほんとすき。公開当時全米での大ヒットを記録し、全国各州で上映禁止処分にもなったという殺人鬼ホラー映画の金字塔。おどろおどろしい映像と共にニュースの報道を挟むオープニングの掴みがやはり秀逸。ジャンルのパイオニアにして典型なので今となってはテンプレ的な要素やシュールな部分も少なくないけど、70年代洋画にこれが出現したら確かに衝撃があることは分かる。

低予算映画らしく全編に渡って素朴なセットとロケーションに終始し、暴力描写も案外遠回しでそこまで直接的ではない。とはいえざらついた手触りの映像や南部アメリカのじっとりとした質感、骨の装飾などを散りばめた家屋内のディティールなど、視覚的な薄気味悪さは中々に雰囲気があって良い。ただあんまり血が出ないのが却って胡散臭い部分もあるので、残酷描写はもうちょっと派手にやってくれても良かった。被害者一行に関しては車椅子の兄ちゃんがさりげなくスパイスで、「誰もはっきり言わないけどぼんやり鬱陶しがられている」「当人もそれにうっすら気付いてるので終始神経質」という構図が殺人鬼とは別軸から作中の嫌な雰囲気を助長している。あと終盤になると「ぎゃあああああああ!!!」「うぁあああああああ!!!」「んんんんんんんぅ!!!」など女優が只管叫びまくるのでその後の喉とかが心配になってくる。もはや殺人鬼一家を食うレベルで絶叫するので凄い。

『サイコ』等から連なる60年代以降の洋画の殺人鬼は総じてパラノイア的で、現実の猟奇殺人事件を内容に取り込んでいく傾向もあっただけに“日常の裏側の狂気”というべき感覚が強かった印象。それに対してレザーフェイスは完全に“辺境の土地を縄張りにするパワー系の怪人”として出現し、その後隆盛するスラッシャー映画のジャンル的要素を明らかに開拓しているのが面白い。チェーンソー抱えながら必死に追いかけ回したり爺さまをせっせと運んで労ったりする姿などは一周回って妙な愛嬌があるが、それでもまあ後々の殺人鬼キャラにまで影響を与えたであろうビジュアルのインパクトは確かに凄い。視覚と聴覚に訴えかけるチェーンソーの暴力性を拓いたのはやはり唸らされる。しかしジェイソンと混同されてイメージを勝手に取り込まれているのは可哀想だ。爺さまのメイクはちょっと往年の怪奇映画すぎるし、最終的にヒッチハイカー兄貴のが怖かったりするのは玉に瑕。

その後のホラー映画にも多数のフォロワーを生むことになる“アメリカの田舎町に潜む殺人鬼”や“都市部から訪れた若者達が犠牲になる”という設定だけど、根本的な部分でディープサウスの奥底に対する当時のイメージが垣間見える。全体的に薄汚くじめっとしていて、レザーフェイスに関係なくぼんやりとした湿度が画面から漂っているんだよな。『イージー・ライダー』で開拓された“理不尽で閉鎖的な最南部アメリカ”の描写だけど、そのイメージが極北へと行き着いた先に“怪物としての擬人化”であるレザーフェイス一家が存在するような気がしてくる。家畜の屠殺が今となっては空気銃で迅速に済まされることが冒頭で語られるだけに、鈍器による撲殺に拘ったうえで人間を代替物として消費する屠殺者一家の姿はある意味で時代に取り残されてしまった者達の“成れの果て”めいている。
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