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悪魔のいけにえのnetfilmsのレビュー・感想・評価

悪魔のいけにえ(1974年製作の映画)
4.4
 1973年8月18日、テキサス州の暑い夏、墓荒らしが頻発している墓地へ向けて、5人の男女が乗ったフォードが走り出す。サリー(マリリン・バーンズ)、ジュリー(アレン・ダンズィガー)、フランクリン(ポール・A・ パーティン)、カーク(ウイリアム・ヴァイル)、パムの仲良し5人組は、うだるような暑さの中、車を停め、開け放ったドアに2本の木製の板をかける。サリーの兄は車椅子生活を余儀なくされていて、草むらで用を足す。道路に1台のトラックがやって来て、爆風(爆音)の中で思わずフランクリンの車椅子の車輪が豪快に転げ落ちる。中西部あたりの砂漠から荒野へ、今日もまたうだるような暑さの元、田舎道を走っていると、一人の若いヒッチハイカーの男(エドウィン・ニール)が道路脇に立って親指を突き出している。車の中へ招き入れたヒッチハイカーの男はナイフの刃先に異様な興味を示し、次の瞬間、フランクリンの腕めがけ切りつける。夕暮れ近くなり、5人は1軒のガソリンスタンドへ。「他人の土地へみだりに入ってはならぬ」という店主の忠告を無視し、5人はうっかりと境界を越えてしまう。ガソリンを得るため、自家発電が行われている他人の土地へ侵入する。カークが恐る恐る扉に手をかけると、その家のドアは開いていた。

 『テキサス自動ノコギリ大虐殺』と題された物語は、5人の若者が次々に生贄となる。緑色のフォードを乗り捨て、5人組が1人また1人と奇人たちの毒牙にかかる姿は、まさにショッキングで生理的な嫌悪感を催す。淡々と告げられるラジオのニュース、未来を指し示すような星占い、鳥の羽と骨を組み合わせた奇妙なオブジェ、夕日を背にした風車のシルエット、真っ赤な自家発電機の鈍い音。幾つもの道具立てが来たるべき悪夢の瞬間へ向かってあらかじめ用意される。映像に付随する音楽はないが、うだるような夏の暑さに拡がる音、けたたましいエンジン音、そして狂気のチェーンソーの回転音が醸し出す怖さは尋常ではない。アメリカン・ニュー・シネマの登場人物たちのように、ヴェトナム戦争の厭世観を抱える70年代のヒッピー世代は、オイル・ショック前夜の見せかけの自由と平和を謳歌する。性に奔放な男と女は好奇心だけで土足で人の土地へ入り、次々に惨劇の瞬間を迎える。35mmフィルムを買う金がなく、16mmで撮影したものをブロー・アップした粒子の荒い映像。青い目のエクストリーム・クローズ・アップとマリリン・バーンズの絶叫。異様な暑さの中、撮影現場には動物の腐敗臭が拡がり、撮影スタッフは強烈な吐き気とゲロの匂いに悩まされた。今ではニューヨーク近代美術館に永久保存されたクラシックにして、ホラー映画の教科書として永遠に色褪せない魅力を放つ。享年74歳、あらためてトビー・フーパー監督のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
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