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悪魔のいけにえの海のレビュー・感想・評価

悪魔のいけにえ(1974年製作の映画)
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怖いものを怖いと言えるのは幸福なことだと思う。わたしはもう目をそらすことすらできなくなってしまった。人は理解が及ばないものに恐怖を覚えるというけれど、そもそもこんなふうに摂取する恐怖というのは偏見や差別の逆輸入だと言っても過言ではないようにさえ思えて、「絶対悪」を「思い込みたい」という渡し合い。これは永遠に続くし、だから恐怖というのは目を凝らせば凝らすほどに原型を留めなくなっていく。この終わらない追いかけっこを、新しいものと古いもの/都会人と田舎者(若者と老人)/逃げ出すものと逃げ出せぬもの/奪われる側と搾取する側、のデスゲームだと見てとることは容易であり、そうすると人間が自分の理解できないものに対してどこまで無関心で冷たくなれるのかがよく見えてくる。息も切れ切れに、鮮血を浴びながら、両者は一歩も妥協ができない。舐めることしか許さない奴が、自分の番が来れば歯を立てさせろと迫る欲深さよ、その逆の罪深さよ。殺されたくないと殺したいは対岸の火事というわけである。チェーンソーの動作音と凄まじい悲鳴の不協和音は、「痛みにはより鋭い痛みを、悲劇にはより惨い悲劇を」という最悪の処置にどこかよく似ている、叫びは丸腰の人間が持つ最後の武器なのかもしれない。音や色に直結している恐怖が思考を邪魔する、なんて地獄絵図。どんなに理屈を並べようが、殺すだけの気狂いと逃げるだけの若者の図に変わりはなく、不変の状況の中で恐怖はいくらでも持続する。これを描かせるは間違いなく人間社会、世界が終わる、守りたまえ、蜘蛛だサソリだ人食いトカゲだ。さあ、好きなだけ目をそらしながら美味しいとこだけ齧ればいいよ。
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