イチロヲ

1999年の夏休みのイチロヲのレビュー・感想・評価

1999年の夏休み(1988年製作の映画)
3.5
夏休み中の学生寮に留まった3人組の男子生徒が、恋愛問題を苦にして自殺した少年と瓜二つの転入生が参上したことにより、激しい動揺に見舞われてしまう。萩尾望都の漫画「トーマの心臓」を原案にしている、ボーイズ・ラブ作品。

男子学生寮を舞台にしているが、出演者は女優オンリー。当時10代の女優が「僕っ子」の少年役を演じており、多重構造的な倒錯世界を構築させている。谷崎潤一郎や川端康成が小説で描いていた、中性的な少年像を具象化させたような映像世界ともいえる。

各人が演劇スタイルで心情吐露するため、劇映画の面白味が停滞してしまうが、幻想耽美な世界観に振り切っているため、訴求力は失われない。森林に囲まれた学生寮の雰囲気作りに秀でており、スチームパンク調の小道具が良いアクセントになっている。

脚本家の岸田理生は、神代辰巳と寺山修司の作品に参加していた人物。「大人になりたいけれど、なるのが怖い」「自分の時間を止めたままで、相手の心の中に生き続ける」というモチーフが、心地よくドライブしている。
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