パングロス

プーサンのパングロスのレビュー・感想・評価

プーサン(1953年製作の映画)
3.4
◎戦後の激動に巻き込まれる優柔不断な数学教師

1953年 98分 モノクロ 東宝 スタンダード

市川崑(1915-2008)は、新東宝時代、1948年の『三百六十五夜』2部作(未見)の大ヒットによって晴れて助監督から監督に昇進したが、1949年の『果てしなき情熱』(2024.4.10レビュー)はかなりの失敗作に終わっている。

新東宝で11本、東横映画で1本撮ったあと、1951年に東宝に復帰して2年後の作品が本作。

横山泰三(1917-2007)による毎日新聞の連載漫画を原案とした風刺コメディだ。

【以下ネタバレ注意⚠️】





画質はコントラストの調整がまずい(ないし経年劣化で悪化した)こともあって、特に冒頭の銀座での事故シーンは、ほとんど何が起きているのか識別できないほど。

また、音声もクリアでない上に、市川崑の演出が平気で複数の声を重ねたりするので、これも何を登場人物がしゃべっているのか聴き取れないことが多い。

また、小津安二郎や成瀬巳喜男の落ち着いた画面、作風に慣れた眼からすると、本作は序盤から、忙しないカメラ移動といい、効果音を交えた音声の重ね具合といい、よく言えば賑やか、悪く言えば落ち着きがない。

ただ、失敗に終わった『果てしなき情熱』と比べれば、監督としての意図として充分汲み取れる演出にはなっている。

怪優という冠で呼ばれる伊藤雄之助が、ほとんど兵六玉と言ったらいいのか、終始うすぼんやりとしてトラックに当てられるは、勤め先の学校からは顎で使われて夜間に回されるは、ノンポリのクセに「血のメーデー事件」に遭遇して警察に勾留されるは、と戦後社会の混乱と激動の渦中に巻き込まれていく。

銀座のバーで、原作者横山泰三と兄の隆一(漫画家)、代議士五津平太(菅井一郎)とその取り巻き、画家、音楽家(黛敏郎?)、共産党員とオルグ相手などなど、身分職業を異にする雑多な人びとが大混雑したなか一斉にしゃべる様子を見せたりする。
その押し合いへし合いの銀座らしからぬバーの群衆を、うねるようなトリッキーなカメラ移動で次々と映し出していく。

小津作品では、電車が出て来るのは定番でも、ついに描かれなかった出勤時の車内のぎゅうぎゅう詰めのラッシュを映す。

袖の下でニセ診断書を書く町医者は、案の定、クビになったかと思うと、時の話題であった警察予備隊に入隊する。

モテない薄給教師野呂(伊藤雄之助)が、日本銀行に勤める下宿の娘カン子(越路吹雪)との初デートで、カン子の提案で、有楽町のストリップを観る。

ノンポリの野呂が、成り行きで参加したデモが、皇居前で「血のメーデー事件」(*)に巻き込まれ、警察に勾留される。
*実際のニュース映像をモンタージュする
‥‥etc.etc.

とまぁ、小津や成瀬ばかり観ていては決して触れることが出来ない、占領解除、主権回復期の日本の混乱を実感することができるのだ。

カン子の彼氏役で特別出演としている黛敏郎の音楽も、いささか尖っている(このため小津の『お早よう』ではハマっていなかった)が市川崑との相性は悪くない。

まだまだ習作的な未熟さも見られるとは言え、戦後世代の感覚をそのまま銀幕に映し出そうとした、37歳の市川崑の意気は、大いに讃えるべきだ。

《参考》
*1 「プーサン」で検索
ja.m.wikipedia.org/wiki/

*2 プーサン
1953年4月15日公開、97分
moviewalker.jp/mv23518/

*3 大船シネマ
プーサン(昭和28年)
2023.04.26
ofuna-cinema.com/puusan/

*4 高山京子のブログ
2023-01-24
市川崑『プーサン』(1953)
takayamakyoko.hatenablog.com/entry/2023/01/24/094351

《上映館公式ページ》
生誕百年 女優特集・第2弾
〈宝塚歌劇出身の2大女優〉
越路吹雪と淡島千景
2024.4.29〜6.7 シネ・ヌーヴォ
www.cinenouveau.com/sakuhin/koshijiawashima/koshijiawashima.html
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