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花と龍のodyssのレビュー・感想・評価

花と龍(1965年製作の映画)
3.5
【沖仲仕たちの仕事ぶり】

この素材は何度か映画化されているそうですが、私としては初めてでした。1965年、中村錦之助主演。

明治末期、四国に育った男(中村)が、狭い日本に見切りを付けて満州に渡ろうと考えますが、同じく日本を捨ててブラジルに渡ろうと考えている若い女(佐久間良子)とひょんなことから出会って惹かれ合い、結局は男は北九州で冲仲仕の仕事をして頭角を現し、やがて組のトップに上り詰める、という筋書きです。

ヤクザは後年は暴力団と言われて完全に悪者扱いされるようになりますが、もともとはここで描かれているように港で肉体労働に従事する日雇い労務者などの集まりでした。そうした仕事をする中でケンカや勢力争いなどもあったとはいえ、彼らのような存在がなければ近代日本が動かなかったこともまた確かなのです。

中村錦之助演じる主役は、なるべく他の組といさかいを起こさないようにと心を配りますが、相手が卑怯な手段を用いたりごり押ししてきたりという状況のなかで、やむを得ず力と力の対決に引きずり込まれていく、というパターンになっています。後年の鶴田浩二や高倉健を主役にしたヤクザ映画のパターンがすでにこの頃からしっかりと確立していたことを示しているのかも知れません。

話はシリアス一辺倒ではなく、主役とヒロインとの関係にはユーモラスなところも多々ありますし、また金持ちの妾である女が裕福さ故に高慢な態度をとったりと、この頃から格差社会だったんだなあと思わせるシーンも出てきます。他のカップルのために主役カップルがせっかく貯めたお金を投げ出してしまったりと、一種人情もの的なところもあって、そこそこ楽しめる作品になっていると言えるでしょう。

なお、淡路恵子が女賭博師の役で登場し、重要な役割を果たします。藤純子のお竜さんを主演とする緋牡丹博徒第一作(監督は本作と同じ)に先立つこと3年。3年後への布石はこの頃からあったのですね。
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