あなぐらむ

セルラーのあなぐらむのレビュー・感想・評価

セルラー(2004年製作の映画)
4.3
今は無き新宿ヲデオン座で鑑賞。ピッタリな一作だった。

さて、キム・ベイシンガーで一番好きな映画は「花嫁はエイリアン」です。ダメですかそうですか。
このポスター画像からだとクラシカルなサスペンス映画をイメージさせるが、実際には非常にB級魂爆発のエンタティメント。

キム・ベイシンガー扮する高校の生物教師(この時点でゴハン三杯OK)が突然拉致され、監禁される。
金髪を意識したのか黒のシンプルなワンピースがまたGood(本筋に関係無し)。
拉致犯は「アレはどこにある?」と迫るが彼女には何の事か分からない。
拉致犯がぶっ壊していった据付型の固定電話。科学の知識のある彼女はそれを何とか通電させて、外との通信を試みる。
繋がった先は、能天気でお調子者だが憎めない感じの青年・ライアンの携帯電話(セルラー)。
切れてしまえばそれで終り、彼女はライアンに狙われている息子の救出を依頼する……というのが冒頭部分。
非常にスピーディに状況とキャラ紹介が進み、後は監禁された彼女と、携帯で自由に移動できるライアンの「電波」という心もとない絆がドラマを転がしていく、という寸法。
携帯から入る見知らぬ人からの通信。このワン・アイデアだけで疾走する90分。携帯のバッテリー切れや通信電波の不安定(トンネルに入れない!等)がそれだけでサスペンスの材料になるアイデアは見事。
そして、登場する小道具がさらにドラマを先に進めていったり、脇役の窓際警官が思いのほか活躍したりとサブプロット、小技が効きまくって後半の大団円へ、前半に配置した伏線を綺麗に改修してみせながらダレ場もなく快調に突き進む。

この作品の原案を書いたラリー・コーエンは「フォーン・ブース」という、NYの街角にある公衆電話だけで話が進む傑作サスペンスも書いており、本作はその発想転換版と言えるが、こちらも見事に携帯電話の持つ利便性と不便さをドラマに巧みに活かしている。
さすがはベテランライターといった感じのいぶし銀の仕事だ。

キム・ベイシンガーはさすがに老けてきてたけどまだまだ美しく、母親の強さも感じさせる演技を見せて合格点。
彼女の代わりに駆けずり回る好青年ライアン役に、この後アメリカの守護神となるクリス・エバンスが扮し、人の良さそうな兄ちゃんぶりでナイスなキャスティング。 悪役にまだこの頃は「トランスポーター」ぐらいしかなかったジェイソン・スティサム。気持よいワルっぷり。またリタイア間近の巡査部長に「ファーゴ」のウィリアム・H・メイシーが扮し、コメディリリーフと同時に、後半の重要なキャラクターとして味のある演技を見せてくれる。  

監督デヴィッド・R・エリスはさすがスタントマン上がりといった感じのケレン味のある画を見せてくれ、合い間合い間に入るユーモア、くすぐりのギャグも物語の見事なクッションにしてみせる。
これぞ「プログラム・ピクチュア」という感じのウェルメイドな作品、エンディングのタイトルクレジットまで凝っていてニヤリとさせられる。(この曲って、「コラテラル」かなんかでも使われてたよね)
ベニー・チャン「コネクテッド(保持通話)」のオリジナルなので、見比べてみるのも一興。