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日本の仁義のblacknessfallのレビュー・感想・評価

日本の仁義(1977年製作の映画)
3.0
日本映画専門チャンネル「東映ヤクザ映画傑作選」の1本。東映好きとしては発見したら観ちゃうよ。実録路線が終わってたからのヤクザ映画は全然観てないからありがたい。

関西の二大組織、神宮会と千田組の抗争を描いた本作は大仰なタイトルらしく超豪華キャスト。菅原文太さん、千葉真一さん、川谷拓三さん、志賀勝さん、成田三樹夫さん、といういつもの実録ヤクザ映画組に鶴田浩二、藤田進、という大御所、フランキー堺、そして大島渚映画のイメージが強い佐藤慶、ちょい役で野坂昭如まで、まだ若い林隆三、池波志乃、キャシー中島というこれぞ70年代という今見ると歴史を感じるキャスティング。

ストーリーは会長の引退で文太さん扮する須藤が神宮会を継ぎ、宿敵千田組の抗争を仕掛けるところから始まる。
二大組織の抗争なんでいきなり正面からぶつかることはなく鉄道会社「阪鉄」の工事受注の利権荒いによる両組、警察、政治家を巻き込んでの鞘当て、それが下部組織の四国の組同士の揉め事からの代理戦争と徐々に抜き差しならない緊張感を帯びていく。

スケールが大きくて俯瞰的に話が進んでいくわけなんだけど、抗争は激しくなるものの映画のエンジンはあまりかからず、いつまでも話がアッパーにならずドライブ感が生まれない。抗争の激化のライド感こそ肝なのに、、
監督が中島貞夫さんなんだよね、中島監督は実録ヤクザも撮ってるけど、根が任侠、人情を見せたい人だからドライにスピードで抗争を加速させることより泣きや哀愁に力点を置く。
せっかくこれだけのスケールの設定なのに神宮会末端の組長石毛が組の都合で振り回され子分を失い破滅するまで丁寧に描く、この石毛役がフランキー堺。須藤の前妻とその子のめんどうを甲斐甲斐しく見て、子供とは親子のような関係になる泣けるいい場面もある。フランキー堺、こういう役ハマるし、泣けていいシーンだけど、ハッキリ言って抗争のゴタゴタが見たいよ笑 他にもチンピラの川谷拓三さんとその情婦がしゃぶ中の女性が捨てた赤ちゃんを育てたりと、擬似親子のいい話、2つもいらんですよ、、笑

主演は文太さんのはずなのにこういう末端の人達の悲哀に尺取られて登場時間少ないんだよ笑
でも、文太さんは本作ではイケイケのヤクザで不利になっても一歩も引かない狂犬でかなりいい味出してた。そのイケイケが仇となって連日新聞沙汰の事件を起こし体裁を気にした「阪鉄」から決まってた取り引きの中止を告げられる。利権を失いたくない親である元会長から破門され警察からマークされ四面楚歌の須藤はシャブに手を出し理性を失う。そして千田組との手打ちを進言した盟友である若頭の木暮を激しく殴打してしまう。
文太さんが『仁義なき戦い 広島死闘編』の大友勝利みたいでかなり新鮮な印象。おもしろいのが若頭の木暮は常に冷静沈着なタイプなんだけど演じてるのが千葉真一さん。2人の役柄がいつもと逆でおもしろいと思った笑 そして成田三樹夫さんが千田組の幹部で頭脳派ヤクザ、成田さんはいつもの感じで、何気に敵側の頭脳派が多い。ある意味金子信雄の"山守メソット"的な安定感があった笑

このあたりの人達のぶつかり合いをメインにしてくれれば『仁義なき戦い 代理戦争』みたくおもしろくなったはずだけど、中島監督の目線は権力者に振り回される側にあるからそうはならなかったんだよな。
一番、強調されてたのは先代から幹部として神宮会に身を置く大橋組組長。
彼は状況を常に俯瞰し会全体の発展と末端の組員達のための選択をして色々な関係の歪みの調整に粉骨砕身する。会に都合よく使い倒された石毛が暴発して立て籠り事件を起こし警察に包囲される中、投降を呼び掛けるも叶わず、石毛が射殺された時に見せる苦悶の表情は、この映画一番の名シーンだった。

話は限りなく実録向きなんだけど、その現代的でドライな風潮に負けていく仁義を重んじた男の話になってしまったんだよな。他にもスポンサーへの忖度でスクープを没にされた新聞記者と木暮の友情物語もあったり、目線は常に状況に翻弄される側にある。なので、そういう脇の人達の愁嘆場が多すぎるんだよな、中島貞夫監督の拘りで笑。深作欣二監督ならもっと狂暴でドライで荒んだ傑作になった気がする。
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