蓼食う虫

別離の蓼食う虫のネタバレレビュー・内容・結末

別離(2011年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

あらすじと予告編を見ても全然興味が湧かなかったが、アマプラ終了間近 & 気になるレビュアーさん達の評価が軒並み高かったので、騙されたつもりで見た。で、結果よかった(笑)

よくこんなグッチャグチャな話思いついたな〜と感心。sex & violence、アートや戦争といった、いかにも映画的な非日常の題材ではなく、誰もが身につまされるリアルな悩みの数々を巧みに織り交ぜて描いたことで、逆に観客や審査員の心を捉えたんやろな。幾多の受賞歴も頷ける。

最初は離婚と介護の話かと思い、こりゃ重たいな〜と早くもウンザリしてたら甘かった。この二つを土台にして更なる問題が発生し、内容が身近なだけ余計にいたたまれなくなる。
責められない動機から吐いた幾つかの嘘が、事件を余計にややこしく面倒臭くしていく。夫が父の背中をグローブで洗いながら泣くシーン。さぞかしどん底の気分やろな…と見るのも辛くなった(全編、妻よりも夫の側に共感を持って描かれていると感じた)。

救いは、事件後言葉を発せずモノ化していく爺さんの呆けた様(爺さんは事故を見てショックを受けたのか?)と、ふた家族の年離れた娘たち。屈託なく遊ぶ二人の姿にはホッとする。

中1の聡明そうな子は度重なる不幸にも耐え続けているが、こらえ切れずに泣き出すシーンが一番グッときた。静かに嘘を問いただす様といい、この子は演技が上手い。
幼い娘はまだあどけなく、扉の擦りガラスで豚鼻を作ったり、相手方の父に忘れ物のノートをリュックへ入れてもらったり、ホワイトボードに落書きしたりするシーンが可愛らしい(一転、終盤ではきつく睨む目つきを見せたが)。

何事も一長一短で、イスラムのしきたりが介護の障壁となったり、逆に証言を翻したり真相を暴くことに役立ったり。日本ならこうはいかないだろう。かといってすべてが前近代的というわけではなく、自分から海外移住や離婚を切り出したり、勝手に示談をまとめたり車を売ろうとするなど、賢い妻は娘のために事態を改善しようと主体的に奔走する。

大事な選択をいつも娘が担わされるのは可哀想。ラストはあのまま暗転してテロップ流してもよかったところを、エンドロールを流しながら、互いに斜め向かいに離れて座る所在なげな父母の姿を背景に写し続け、観客を待たせた挙句に結末は委ねるという心憎さ(大方の予想は「父」だと思うが、個人的には、心優しいあの子なら両親に復縁を再提案する、に願いも込めて一票!^^)。最後まで見せてくれるこのサービス精神溢れる方式、主流になって欲しい。

劇中は音楽も流さず、カメラはまるで現場にいるかのように近くから、時に揺れながら写して、見る者をまるでその場に居合わせる当事者のような気にさせてくれた。

しかし、誰が日給と同額の金をくすねたのか? 消去法で考えると夫の狂言が一番怪しいが、真相は藪の中(そういえば、冒頭の裁判官に向かって訴えるアングルは『羅生門』の検非違使庁で語るシーンと似ていたような)。

※「模型」と字幕に出た時に「モケート」と聞こえた気がしたので検索したら、やっぱそうなのか(質問者もこの映画を見たのかな)。たまたま音が似てるだけかな?

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14231535019
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