B5版

別離のB5版のネタバレレビュー・内容・結末

別離(2011年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

かなり良作!
取り返しのつかない泥試合に及んだ人間達の圧倒的な疲労が伝わる。
事件が起こり双方の落ち度を立証していく過程でそれぞれの家族の軋轢が音を立てて壊れゆく様を描いた本作、
これはイスラム圏だけが特別じゃない諍いの話ですがここに宗教が絡んできて独自の色の作品になってる。
面白いというのはなにか語弊があるが見応えのある作品、疲弊感と満足感に深く嘆息する作品。

物語は男に押されて流産したと訴える家政婦、押していないと訴える男、この2人の争いが主軸となり展開していく。
介護の資格もない妊婦なのに働く選択肢しかない女、
縛られて虫の息の親族を見て冷静でいられない男、
娘の将来のために外国で可能性がほしいという女、 
我が子の死にとにかく激昂する理性の欠けた男、登場人物全員の心情描写のバランスが良いのだが
その中で「我を忘れる男の尻拭いをする女、被害を被るのは女」の構図が繰り返し描写されているところも面白い。
暴力と感情が癒着している、暴力が行動の選択肢にある男の不味さの問題は、図らずしも今年のアカデミー賞を彷彿とさせる。

当事者以外の女達は総じて聡明であり、ずっと公平な視点から真実と解決の道を見つめる。
夫婦の娘はその筆頭で、階段での再現の場では親の欺瞞に対する軽蔑とか現状の情けなさへ唇を噛んで耐え忍び、
一方その一瞬の表情に気づかず自己弁護に熱中してる父親の対照的なシーンは醜く滑稽で悲しくて、とても見ていられなかった。私の好きな映画「ブラック・ブレット」みがあって好きなシーンだ。

インシャーアッラー "神が望むならば"。
それ自体が悪いと思うからでなく、神様がお見通しだからこそ罰が降ると思うのか?
この辺の機微は日本人にはどうもわからない…
今作ではコーランに手を当てて言動を誓うことが浸透した社会の中で愛娘を共犯にしたてようとする父親や夫のために沈黙を守る妻、愛のしがらみにより善なる心が守れないという矛盾が横たわっている。
宗教の尊さとはなんだろう?
ファルファディ監督はイスラム教も男性の暴力性も冷静に客観視している印象。

2時間、嫌になるくらい「人間」を見たなぁと感じた映画。
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