panpie

別離のpanpieのネタバレレビュー・内容・結末

別離(2011年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ご覧になった方のあまりの高評価とずらりと並ぶ受賞タイトルの多さに驚かされてずっとTUTAYAでレンタルを狙っていましたがいつもレンタル中でやっと借りる事が出来て観る事が叶いました!やったー!*\(^o^)/*


イランの物語。
離婚を申し立てている一組の夫婦がいる。
娘テルメーの教育の為に外国に行きたい妻シミンとアルツハイマーの父がいるから外国には行かれないと言う夫ナデル。
結局話は平行線で妻が家を出て仕事中に父親の面倒をみてくれるヘルパーを探す事に。
シミンの知り合いで小さな子どもがいるラジエー。
ナデルの仕事中にアルツハイマーの父親がいなくなり大慌てで外へ探しに行く。
通りを渡ったところに父親はいた!
車通りの激しい道を渡ろうとしている!
焦るラジエー。
そして…

娘のテルメーと一緒に帰宅するナデル。
鍵がかかっている?
ラジエーはいないのか?
なんとか家に入ると父親がベッドに手首を縛られて倒れている!
そこへ帰宅するラジエー。
ナデルは激怒しラジエーを解雇しすぐさま家から追い出す。
その追い出す過程でラジエーは流産してしまう…


この映画で誰が悪いかと考えても分からない。
ナデルとシミンは娘や父親の事を思って離婚を切り出し、切り出した事でラジエーをヘルパーとして雇うことになり、ラジエーは失業中の夫を気遣って妊娠しているのにもかかわらず介護や家事の仕事を請け負い、ラジエーの夫は流産した妻を思うが故に裁判を起こし、娘のテルメーは父を思うが故に嘘の上に嘘ををついてしまう。

物事には完全に善悪・白か黒かの判断が難しいグレーな場合が圧倒的だと思う。
その人の立場になればもしかしたら悪だと思っていた事がやむを得ない事情でしてしまった事に対し判断を下す事が難しい。
今作は正にそれだ。
それぞれの立場で考えるとそれぞれ間違っていない。

イランの映画は初めて観た。
イスラム教に於いてはよく分からないが案外簡単に離婚の申し立てが出来る事がとても意外だった。
宗教上離婚は出来ないと思っていたので。
裁判と言っても狭い部屋で判事?一人が本人達の申し開きと書類を見て何度も話を聞いて結審して行くのだが日本の様に裁判を起こしても何年前の事件か忘れてしまう程始まるのに時間を感じないしとても親身でスピーディだったので意外だった。
お国柄女性は外を歩く時は髪も身体も隠す様にマントやルーサリー(スカーフやストール)を必ず着用しているがイスラムでは女性の髪の毛や手首・足首さえエロチックと捉えるらしく子供でも容赦なくしなければならない。
劇中街並みが映るが車が多く往来していて渡る時は信号など見当たらなかったから隙間を縫う様にして渡ったりしていてちょっと怖いと感じた。
交通規制はどうなっているのだろう。
買い物をするシーンがなくて残念。
イランのスーパーマーケットの様子は見てみたかった。

この映画で描かれているのは銀行勤めのナデルと妻シミンは教師という裕福そうな共働き生活を送っている様に描いているのに対してラジエーの夫は失業中だ。
裕福で妻も仕事を持つ“進んだ”家庭のようだがアルツハイマーの父を抱えているという問題点もある。
イスラム圏では女性は正当な理由が無い限り結婚した女性は主婦でなければならないのかと勝手に思っていた。
誰かを雇って面倒をみてもらおうとしているがそれは払えるお金を持っているから。
かたや妊娠中で学校にも通っていない小さな子がいるのもかかわらず重労働の介護を引き受けないと借金が返せないラジエーとなかなか就職できない(しない?)ラジエーの夫。
万国共通の貧富の差と介護の問題がバックボーンにある。

イスラム教の事はよく分からないが皆相手を思ったのにせよ嘘をつきまくる!笑
そのくせ「コーランに誓って」と言う件りが多く出てくるがその途端にそれは出来ないという。
嘘でした!と言わんばかりにすぐに掌を返す。
コーランに誓わなければいとも簡単にすぐバレる様な嘘をつくんだな。笑
偽証罪に問われる欧米の裁判とそこが決定的に違っていて宗教が絶対で劇中よく出てきたが“呪われる”と考えている。
イランで無宗教の人はきっと旅行者以外いないのだろうなと思った。

イランの男性に限らない事だと思うが男性陣が皆すぐキレる。笑
キレて相手の話を全然聞こうとしない。
冷静に話す事は確かに難しい事だが第三者的に見て冷静に考え対処出来る様になりたいと思ってしまった。

観終わって思った事はあまりにも会話が圧倒的に少ないという事だ。
ラジエーを解雇した時盗みをしていたかとかバッグの中を調べて取ってないと確認する事や父親を縛って外出した理由など相手の話を聞く事やシミンが引越しの時に一階分の料金を払った事やラジエーが流産した本当に理由など何かあったらその時点ですぐに伝える事をしていたらこんな事にはならなかったと思う。
確認もしないで憶測で皆走る走る。笑
あと感謝の言葉がなく問題はお金で解決しようという富裕層の考えが前面に出過ぎていてあの場面でお金を払えばいいのでは無く自分が出来ない時に相手がしてくれた事に対してありがとうの言葉と感謝の態度を表してさえいれば物事はこんなにこじれず案外すんなりと治ったのかもしれない。
会話が少なすぎて登場人物皆がその場ですぐ確認しない。
これはイランだけではなく日本は勿論世界中の人々にとって共通な事だし共感出来るポイントだったはずだ。
この映画が各国の数々の賞を取っている理由だと思う。
123分があっという間だった。
途中無駄なシーンは一切なく中だるみも無し!
伏線が多く消えたお金の行方は二度鑑賞してやっと分かった。
文句の付けようがない。
驚きだ。
こんな凄い映画があったなんて!しかもイランに!

ラストのシーン。
親権を巡る所まで離婚問題はこの一件でこじれてしまった。
「もう決めています」と泣きながら何度も言うテルメー。
両親を廊下に出し判事にテルメーはどちらと暮らすと言ったのだろう。
想像出来ない。
両親はテルメーの教育を巡って離婚訴訟に至ったのだが本当にそうだったろうか。
娘の為と言う大義名分の元にお互いの性格を嫌という程知り尽くし最早妥協点も見出せず相手は絶対に変わらないと分かった時の最終手段に出ただけの様に思う。
廊下で離れた場所に立ちもう目さえ合わせる事も無く夫婦の溝がこの一件であまりにも深くなった事は明白で二度と寄り添う事は絶対に無い。
娘を思うと切ない。
子供に選ばせるなんて。
「クレイマークレイマー」を思い出した。
余韻に浸っているいつものエンディングと違ったのはクレジット無し!
もっと余韻に浸りたい所だが意外とあっさりと終わってしまった。
ハルファディ監督の「ある過去の行方」を早く観たい。


本当に凄いものを観た。
「灼熱の魂」と同じ視点ではないが文句なしのスコア5だ。
付けられるなら100点を付けたい。
当分これを超える映画はないだろう。
反面この映画を超える映画に出会いたい。
その一心でまた映画を観るんだろうな。





panpie

panpie