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一命の3939pandaのネタバレレビュー・内容・結末

一命(2011年製作の映画)
1.5

このレビューはネタバレを含みます

申し訳ないながら駄作と評価せざるを得ません。権威への痛烈な批判だった『切腹』の良さをことごとく損なっています。

映像は美しいし、演技が上手いと世間で評判の俳優が多数出演している(どちらも『切腹』には遥かに及ばないけれど)のにこうまで残念な仕上がりなのは、ひとえに、権威を批判する要素を減らして個人のお涙頂戴話に仕立てた監督と脚本家に責があると思います。

求女に金をせびる台詞を直接的に言わせたこと、井伊家家老の斎藤が苦しむ求女を見かねて彦九郎の代わりに介錯してやったこと、求女の亡骸を届けた連中が求女の要求した額の金を置いていったこと。
井伊家を人情ある組織に見せるこういった改変を重ねたことによって、半四郎の怒りが逆恨みに見えるのが致命的。

井伊家側を悪辣に描かなかったことで社会制度批判が一層浮き彫りになったという評もありますが、個人的には納得できません。
制度は人間が作り人間が運用しているものであって天災とは違うので、『切腹』のように制度によって得している側である井伊家の人間の欺瞞をきちんと描くか、そうでなければ井伊家も制度によって苦しんでいるのだという描写をしなければ、批判の対象が有耶無耶になってしまうと思います。『一命』はどちらでもない。

社会的制度の問題を、社会の問題として批判することなく個人の話に落とし込んで終わらせるフィクションは多数見かけますが、よりによって反骨精神に溢れた名作の『切腹』をそのように改変するとは、空いた口が塞がりません。
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