シズヲ

ホワイトハンター ブラックハートのシズヲのレビュー・感想・評価

3.3
『アフリカの女王』撮影時、ロケ現地にて映画そっちのけで象狩りに没頭したというジョン・ヒューストン監督の暴走を基にした映画。「サクセス・ストーリーにあまり興味は無い。人生の大半が挫折者であることは周知の事実であるはずだ」というヒューストン監督の発言はとても好きだが、本作において彼をモデルに描かれたジョン・ウィルソンもまた挫折者へと成り果てる。この映画のエピソードのどこまで実話に基づいているかは把握していないけど、型破りな人物であることはよく分かる。

ジョン・ウィルソンは傲岸不遜な皮肉屋で、自らの功績による虚栄心に囚われた男という印象。慣習的なハリウッドの現状を「娼婦」と呼んで扱き下ろし、頑固な態度で周囲を振り回していく。目の前の人種差別に憤る姿は立派なんだけど、直後にボコられて負け惜しみを吐く姿からして彼の根本的な見栄が伺える。そんなウィルソンは次第に象狩りへと没頭していくが、その理由さえも不明瞭。象狩りは大きな罪であり、それ故に魅せられるのだと言う。彼自身でさえ自分の動機を上手く理解してない、それでもやるしかない。アフリカの大自然へと降り立ち、彼自身の本能さえも解き放たれたかのような執着ぶり。撮影さえも放棄するほどの理解不能な狂気の果てに、彼は挫折へと転落する。途中で脚本の最終稿が動物にぶちまけられて皆で爆笑するシーン、もはやウィルソンの投げやりぶりと混乱の象徴めいてて恐ろしい。

尤も、全体的にはあんまり乗り切れなかった感は否めない。主人公の人物像に話の大半を割いているのに、それが映画のグルーヴ感に貢献していないような印象。象狩りが文字通り理解不能なのは実話通りなので百歩譲っても、もう少し物語とテーマ性の接続を明確にしてほしかった。それでもイーストウッド監督作なだけあって、全編を通して淡々とした気品に満ちている。アフリカの大自然をバックにした撮影のシャープな美しさは印象的。そして本作において何より秀逸なのはラスト。あれほど傲慢だったウィルソンが決定的な敗北感に打ちのめされ、タイトルにもなっている皮肉めいた“呪い”を刻み付けられる。あの力無き佇まい、生気の抜け落ちた「アクション」の一言。紛れもない挫折者としての姿。“映画の始まり”が“終幕”になるという矛盾の円環構造が味わい深い。
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