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小林多喜二のmhのレビュー・感想・評価

小林多喜二(1974年製作の映画)
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野心的な構成の小林多喜二伝。
死体が横たわる部屋にフォークソングを歌いながらナビゲーターが登場するという、ちょっとびっくりするような展開。
時代を遡って、幼少期や恋愛、家族のこと、共産党員として活動を追っていく。
労働農民党の山本懸蔵という人物が登場したので、ヤマセンこと山本宣治の名前を映画のために一部変えたのかと思ったら、山本懸蔵というひとも別にいたのを知らなかった。通称ヤマケン。ソ連に脱出中に大粛清で殺されるという筋金入りのコミュニストだった。
ほかに、伊藤整(大学時代の同級生)、江口渙、宮本顕治なども登場した。築地小劇場なども。
芥川龍之介とか壺井栄をちょい役で登場させてるのが素晴らしい。
当時は共産主義という思想が世界的な流行しており、資本主義にとって都合が悪いのはわかるんだけど、当時の日本のような全体主義にとっては、そんな悪いことではないのではないかと、漠然と思っていたんだけど、作中にその答えをみつけることができた。
天皇陛下が特別な存在なので、万人の平等を説く共産主義が都合悪かったのだ。なにも自然発生的に、日本が全体主義に走ったのではなく、特高や憲兵たちが、強烈に思想弾圧したことで全体主義国家になっていったということがよく分かる内容だった。
臨官席から「弁士注意!」とやる、山本薩夫の「武器なき斗い」でも登場した、労働者集会が相変わらず強烈だった。
棺に赤い布はコミュニストだからかな。赤い花も共産党つながりなんだろうか。
いずみたくのポップでチープなBGMが、いかにも昭和でなんかちょっともったいなかった。
実は関係者かと思われたナビゲーターがナビゲーターでしかなかったのも意外っちゃ意外。
冒頭から第四の壁を平気で越えてきてびっくりしたけど、なんだかんだで、このスタイルが大成功している稀有な映画になっていた。低予算だから苦肉の策だった文言もネットに見つけられたけど、それ以上に、今井正の手腕がすごいんだと思った。
面白かった。
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