イルーナ

展覧会の絵のイルーナのレビュー・感想・評価

展覧会の絵(1966年製作の映画)
3.5
【手塚版ファンタジア】

ムソルグスキー作曲・ラヴェル編曲の『展覧会の絵』を元にイマジネーションを膨らませて作られた短編集。
要するに「手塚版ファンタジア」といった感じの作品です。

作品をろくに見ず、自分の好みや気分次第で批評していたジャーナリスト。
しかし理屈をこねることは得意でも、穴を掘ることすらできなかった。

大都市の中で行き倒れ寸前になっていた虫が庭園を見つけるが、花も蝶も水もすべて人工物だった。
造園師に投げ捨てられた虫は皮肉にも、今際の際に本物の草から滴る、本物のしずくを浴びたのだった。
(そういや極限状態に置かれた男がしずくを求める、その名も『しずく』という短編もあったな)

従業員全員クビにし工場全体をオートメーション化した工場長。
ところが機械の反乱に遭い、結局自分がシステムに組み込まれるのだった。

優秀なトレーナーに拾われボクシングのチャンピオンに上り詰めた象。
名声を得るうちに女に溺れて増長し、トレーナーと喧嘩別れ。すると途端に勝てなくなり、トレーナーの元に戻ろうとするも見限られる。


中にはアイデア勝負的な作品もあり、テレビタレントの話と修行僧の話はオチが全て。
前者は車の曲線やデザインが妙にセクシーで流石という感じだし、後者は荘厳な音楽に反してほとんど動かないが、最後の最後に……


個人的に好きなのは、白と黒のヒヨコのパートとラストだな。
曲名が「卵の殻をつけた雛の踊り」ってまんまだったんだ。
ラストも皮肉たっぷりで、天国の門を通る者たちは、それを支える彫刻たちの苦しみには目もくれない。
そして登場人物がたどり着いたと思われる“天国”の正体は……w


こうして見ると、冒頭の「全体のテーマとして、現代の英雄の群像を描いて、終曲は、それらが栄光と賞讃のゲートへ向って行進するシーンでまとめてみました」という言葉が味わい深いです。
これらが“英雄”だとは……
ただ、内容は曲や表現の割に風刺に偏りすぎてやや単調な印象。

しかし、『手塚治虫 漫画40周年』には葬式のパートも紹介されてたのに出てこなかった!
カットされたのか……?
イルーナ

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