あおや

ブルーバレンタインのあおやのネタバレレビュー・内容・結末

ブルーバレンタイン(2010年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「思い出はいつも綺麗だけど それだけじゃお腹がすくわ」
現時点で自分が1番好きな作品。

両親が不仲だったために愛に執着したディーン、不仲だったからこそ愛を信じられなかったシンディ。そしてそういった家庭環境で育ちこの映画を撮ったデレク・シアンフランス監督。決して円満な家庭ばかりではなくなった現代で、その2世が夫婦を、あるいは愛をどう捉えるか?がこのトラウマ恋愛映画の隠れたテーマであるようにも思う。

ディーンがボビーに殴られるシーン、ディーンが病院で暴れるシーンで鳴り響く電話の呼び出し音は"はやく止めてくれなければ気持ち悪い"。それを暴力的なシーンとあわせることでその焦燥感は一層強まる。誰か、誰かはやくこの映画を終わらせてくれ。
(シンディが要所要所で使う"stop it"はすべて表情が全く異なる点も興味深い。)

映画をみた第一印象はとにかくディーンの一途な愛に切なさがつのる。終盤で1度投げ捨てた指輪をもう1度探しにいく背中、花火が打ち上がる中去りゆく背中はたまらなく愛しい。しかし、鳴り響く呼び出し音は少しのズレから不協和音になってゆく。どちらが悪いわけでもない。それがかえって私たちを行き場のないやるせなさの中で動けなくさせる。

『ブルーバレンタイン』は本当にトラウマ恋愛映画なのか?恋人と観てはいけないのか?「愛はいつか消えてゆく」?幼い頃、両親からの愛を享受しなかった監督がこの作品で執着しているのは愛そのものだ。愛への渇きが、かえって愛を渇望させる。だとしたら円満であることは果たして本当に幸せなのだろうか。そして、愛を知らないものは、愛に対して不器用でしかいられないのである。この映画の本当の恐ろしさは、この耐え難い矛盾への寒気だ。
あおや

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