シズヲ

自転車泥棒のシズヲのレビュー・感想・評価

自転車泥棒(1948年製作の映画)
4.0
第二次世界大戦後、人々が貧困に喘ぐイタリア。妻子持ちの失業者であるアントニオは苦しい生活の中でようやく職にありつけたが、その矢先に仕事に必要な道具である自転車を何者かに盗まれ……。1940~50年代のイタリアの映画界で隆盛し、当時のイタリア社会を描写したネオレアリズモ映画の代表的作品。実際に失業者だったという主演を始め、役者がほぼ素人で構成されているらしいので驚かされる。どの出演者も見ている最中はそうとは気付けない程の好演を見せているので凄い。

当時の社会を克明に捉えたロケーションがやはり秀逸で、更地の広がる居住区の光景や溢れ返る失業者など戦後の困窮と荒廃が滲み出ている描写の数々が印象深い。徒労へと向かっていく奔走の中、主役の親子を淡々と捉えたロングショットが途方も無い閉塞感を浮き彫りにする。雨が降り注ぐ町中を往くシーンの暗澹たる空気感は特に印象的。過度な演出を抑制したリアリズム的作風は40年代後半という時勢を考えれば実に先進的で唸らされる。あと奥さんが胡散臭い占い師の説法を頼っていた辺り、現代で言うところの怪しいセミナーへの傾倒めいてて妙な生々しさがある(そして人は閉塞と焦燥の為にそういったものに縋ってしまうことを終盤に改めて思い知らされてしまう)。

最初から最後まで親子の絆は変わらないのに、先行きが見えないまま焦燥を募らせていく父親とそんな彼に健気に付き添う息子の姿からは何とも言えぬ痛ましさが漂う。そんな彼らの奔走が黙々と描かれる中で映画は次第に暗雲へと向かっていき、終盤では遂に“負の連鎖”へと至る。それまで何とか保ってきた父性の威厳さえも踏み躙られるかのような虚しさ。しかし親子二人は引き離されることなく、何の救いも罰も無いまま放逐される。涙を浮かべながら群衆の中へと溶け込んでいく二人を映したラストショット、悲哀に満ちた遣る瀬無さと共に映画は幕を下ろしていく。
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