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自転車泥棒のTSのレビュー・感想・評価

自転車泥棒(1948年製作の映画)
3.7
【戦後イタリアの虚しき現実】
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監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
製作国:イタリア
ジャンル:ドラマ
収録時間:88分
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『無防備都市』、『揺れる大地』と並ぶイタリアのネオレアリズモの代表作だそうです。ネオレアリズモとは、当時のリアルな現実をありのままに描く手法のことで、この三作が有名だそうです。『揺れる大地』は未見ですがこれらに共通するのは、ありのままに描くということなので必ずしも報われることはないということでしょう。

戦後のイタリア。失業中のアントニオ・リッチはやっとの思いでポスターを貼り付ける仕事に就く。それをするには自転車がどうしても必要であり、先日質屋で売ってしまった自転車を買い戻して仕事をする。ウキウキの顔で仕事をしていたのだが。

非常にシンプルな映画で見やすいです。タイトルからも予想できる通り、その自転車が何者かにより盗まれてしまい、それを子どもとひたすら探し続ける映画です。

現代から見るとたかが自転車と思われますが、戦後の当時からするとこれを盗まれるのはとんでもないことだったようです。失業中で、やっと職につけたアントニオからすると最悪の事態でしょう。自転車がなければ解雇されるのですからまさに生命線みたいなものです。

ご都合主義の映画であれば結末はハッピーエンドになるのですが、それを必ずしもさせないのがネオレアリズモの特徴だと思います。これらの「現実」を映すことにより戦争の悲惨さ、当時の荒れ模様を如実に伝えることになります。今作はたまたま自転車を題材としてますが、このレベルの物品が盗まれるのは日常茶飯事だったということも示唆しています。今の日本では少し考えれない状況です。

まわりの人々も冷たい。教会の人も警察も。でもこれが現実なのかもしれない。映画の中で見る「人と人との助け合い」はもしかしたら幻なのかもしれません。それは人々の「理想」であり「現実」とは程遠い気がします。

思えば、ハッピーエンドがお約束ごととされている映画界ですが、敢えてそれを外す映画に僕は共感を持ちやすいです。ハッピーエンドにするという決まりはどこにもない。今作のように、なんとも言い難いラストもあるべきなのです。今作は、そのなんとも言い難いラストそのものが、当時の状況を反映したものということで評価が高いのだと思います。それは僕も同感です。こういう映画は好みであります。

フィクションのようでフィクションではない。まだまだ未熟ですが、ネオレアリズモについて少し知れた気がしました。個人的には『無防備都市』より響きました。
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