不在

こうのとり、たちずさんでの不在のレビュー・感想・評価

こうのとり、たちずさんで(1991年製作の映画)
5.0
終末が来れば等しく滅びる世界を、小さく小さく切り分ける者たち。
自然に対し勝手に線を引き、それが心の線にもなってしまう。
何故一つになろうとしないのか。
神は何故言葉を分けたのか。
自分の本当の家は何処にあるのか。
そんな苦悩を外から来た者がひっかき回す。
しかしこの亡命者はそれすらも受け入れるのだ。
そしてたちずさんでいたコウノトリが、遂に羽ばたいたその時に祈りは通じる。
『ノスタルジア』のロウソクが燃え尽きた時と同じように。
彼の犠牲によって、世界は少しずつ繋がり始めた。
残された少年が、凧の話を他の国へ伝える為に。

監督自身も母国ギリシャの問題を映画にしながら、そこに傲慢さや罪悪感を感じていたのだろう。
人の心に土足で踏み込むマスコミ達がその表れか。
確かに深刻な問題を扱って金を稼ぐ行為は偽善的だ。
しかしこの映画はとにかく美しく、儚さに溢れている。
この喜びこそが人を救うのだ。
不在

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