ツクヨミ

アメリカの影のツクヨミのレビュー・感想・評価

アメリカの影(1959年製作の映画)
3.7
即興的で自由なインディペンデントさを発揮しながらリアルな人種差別要素を盛り込んだカサヴェテスの映画革命。
ジョン・カサヴェテス監督作品。特集"ジョン・カサヴェテス レトロスペクティブ"にて鑑賞、カサヴェテスの長編デビュー作ということで意気揚々と見に行ってみた。
まずオープニング、手持ちカメラのようなグラグラ感で雑多混迷なパーティーシークエンスを見せていく。初っ端勢いとパワーが炸裂し"フェイシズ"でも見た会話劇の圧倒的なストリームに飲まれるのがやはりカサヴェテス、もはや長編第一作目にしてスタイルはほぼ確立していたと言えるだろう。
そして今作が製作された1959年は世界中(特にフランス)で映画革命の兆候が見られた時期だ、フランスではトリュフォーが"大人は判ってくれない"を発表し次年ではゴダールが鮮烈なデビューを飾る、そんな折にアメリカの下っ端界隈で本作が自由な作風を密かに見せつけていたとは。1960年代から始まるアメリカンニューシネマはフランスヌーヴェルヴァーグの影響が強いのは確かだろうが、既にカサヴェテスが目下インディペンデント界隈で映画革命を切り開いていたと考えると映画史的にはめちゃくちゃ重要なんだと評価したくなる一作だ。
ストーリーに関していえば本当に脚本など存在しないがごとく、とある黒人3人兄妹の日々を会話を主に見ていくのみ。正直内容なんてあってないような感じなのだが、時折見える人種差別を被る彼らの姿に心が締め付けられる。しかしそこは現代的な辛い人種差別要素とはいかないまでも日常生活で彼らが被っているであろうリアルさで勝負という点、小さな人種差別が彼らの生活に少なからず悪い影響を与えていくのがまあリアリズム形成しててうまいなーって感じた。
またショットとして相変わらずクローズアップの魅力が凄くて、黒人には見えない妹さんの顔面の綺麗な映えショットなんかマジで惚れ惚れするぐらい。まあそこは"フェイシズ"に比べればまだ普通なのかもしれないが片鱗は見えていると感じる。そしてlife goes on...なエンディングはカサヴェテスの大事な要素であると感じるし、そこはたしかにスコセッシが真似してるスタイルなのかなと感じたり、やはり多様な映画作家にしっかり影響与えてそうなカサヴェテスの長編デビュー作はなかなかに素晴らしかった。
ツクヨミ

ツクヨミ