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ふたりのイーダのMOCOのレビュー・感想・評価

ふたりのイーダ(1976年製作の映画)
3.5
「椅子は何を考えているのでしょうか?考えているのではありません。一生懸命思いだそうとしているのです。
 昔この家にはおじいちゃんとイーダちゃんという可愛い女の子が住んでいた。
 ある日おじいちゃんとイーダちゃんは二人で揃ってどこかへ出掛けていった。そしてそのまま何年たってもかえってこなかった。
 いったいどこへいったのか、椅子はイーダちゃんの帰りを昨日も、今日も、明日も待ち続けているのです」

 児童文学作家の松谷みよ子さんによる戦争や公害などをテーマにした『直樹とゆう子の物語』シリーズ全5部作の第1作『ふたりのイーダ』の映画化です。松山善三氏と山田洋次氏の共同脚本、松山善三氏が監督をされています。


 1976年の夏休み、雑誌記者の相沢美智(倍賞千恵子)は広島の祖父母(森繁久彌・高峰秀子)の家へ直樹(小学四年)と、ゆう子(三歳)を連れて帰ってきます。

 虫取をしたい直樹は、カラスアゲハ(蝶)を追いかけるうちに「イナイ、イナイ」というつぶやきを聞きます。声の主は変わった形をした木製の椅子、直木は椅子が歩いて壊れかけた屋敷のに入るのを見ます。
 翌日、直樹は、ゆう子が屋敷の中で椅子と遊んでいるのを見つけゆう子を連れ帰ろうとして、椅子から思わぬ攻撃をうけます。その翌日怖いもの見たさで屋敷を訪ねた直樹は椅子と会話を交わします。
 椅子はここにおじいさんとアンデルセンの「イーダちゃんの花」のお話が好きな女の子(イーダ)が住んでいた事を話します。椅子はゆう子を女の子(イーダ)と勘違いしているのです。
 不思議なことにゆう子は「イー」とする顔をするのが得意なのでイーダと呼ばれているのです。
 あまりにイーダの帰りを待ち過ぎた椅子は記憶がおかしくなり二人がいなくなったのはつい最近のことと思っているのです。直木は壁に皇紀2605年8月6日で止まった日めくりカレンダーを見つけるのですがそれが西暦1945年であることに気がつく訳はありません。

 直木は家族に歩く椅子の話をするのですが母親も、おじいちゃんも信じてはくれません。おじいちゃんを屋敷につれてきても椅子は黙り続けているのです。

 カレンダーの日めくりが止まった日が広島に原爆が落とされた日とおじいちゃんに聞かされた直木は椅子にイーダが死んでいると話すのですが、椅子はゆう子を私のイーダと言い張り「イーダには背中に3つのホクロがある」と言うので、ホクロのないゆう子の背中を見せると椅子は愕然とし、一人広島の爆心地へ向かいます。「もしかしたら、大火傷で帰れず困っているイーダがいるかもしれない・・・」

 話は美智とその母親、家族が被爆者であり求婚された美智が被爆者として悩みながら再婚を決意するお話と同時進行していきます。

 広島の町をさ迷い、すでにイーダが存在しない事を知った椅子は川に身を投じると、川底で多くの犠牲者の魂に出会いイーダにも出合います。

 被爆者の美智は30年もたった今も常に自分の心配と、こどもたちの心配をしながら生きていかなければならない・・・松谷 みよ子さんの反戦児童文学を脚色して映画は制作されています。松谷 みよ子さんと言ってもピンとこないひとが多いかもしれませんが、熊ちゃんの表紙の絵本『いないいないばあ』の作者と言えば日本人のほぼ100%の人が表紙を見たことがあり80%のひとが幼少期に読んでいるお話の作者です。学生時代この「ふたりのイーダ」の原作は話題になっていたことを覚えていますが映画を知ったのはずいぶん後です。

 文部省選定・厚生省中央児童福祉審議会推薦・日本PTA全国協議会推薦等8箇所からの推薦がついているのですが、大人が観ても充分耐えられる?内容です。川底で椅子が魂と出合うシーンはほとんどオカルト、小さなお子さまにはトラウマになりそうな映像です。

 松谷 みよ子さんの『龍の子太郎』は幼稚園の教室でであった印象深い絵本で作画こそ違うのですが60才を越えた今も大切な蔵書の一冊です。本を読む楽しさを教えてくださった作者です。大好きな『龍の子太郎』は名作なのに残念なことに、現在本屋の店頭で購入することができないお話です。

 
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