櫻イミト

タルコフスキー・ファイルin「ノスタルジア」の櫻イミトのレビュー・感想・評価

4.0
タルコフスキー監督「ノスタルジア」(1983)のメイキング・ドキュメンタリー。監督を中心にスタッフ・キャストの撮影風景を追う。

「ノスタルジア」は、自分のオール・タイム・ベスト級の一本なので格別に興味深く面白かった。重要シーンの撮影風景は殆ど網羅され、映画の魔法の種明かしを覗いている気分になり目が離せなかった。

映画用の煙が自然の風の流れによって思うように定まらず苦戦する撮影陣。このシーンにタルコフスキー監督の映画論が象徴されている。撮影とは「現実の固定。つまり時間の固定だ。時間を永久に保存しいつでも何度でも見られるようにするのだ」「時間を固定できる芸術は映画だけだ。すなわち映画とは時間のモザイクなのだ」。これこそが、どんなにCGが発達しても越えられない映画の秘密だろう。

同作はロケーションが究極的に素晴らしいのでメイキング映像も素敵に見えてしまう。たびたび本編の台詞が撮影風景にかぶせられるのだが、示唆を多分に含む台詞が多いので、タルコフスキーの映画製作を詩的に表現したナレーションにも聞こえるのが面白い。

ベルイマン監督作品の常連俳優エルランド・ヨセフソンが両監督を比較して語る言葉も興味深かった。

名作の貴重なメイキング・ドキュメンタリーであり、本作を製作し残してくれたことにとにかく感謝したい。
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