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好色一代男のstanleyk2001のレビュー・感想・評価

好色一代男(1961年製作の映画)
4.5
『好色一代男』1961(昭和36年)大映

世之介「おなごは不思議な生き物や。男が弁天様や思うて大事にしたら弁天さんになるし、鬼婆や思うてあしろうたら鬼婆になる。男の気持ち次第で弁天さんにも鬼婆にもなるわ。おなごは可愛らしい化け物や。美しい生き物や」

世之介「おなごは尊いものや。男より偉いのや。第一、男はおなごから産まれるのや。お釈迦さんでも孔子さんでもみんなこのお腹の中から産まれてきたんと違うか。この世の中のものはみんなおなごから始まるのや。男の喜びも楽しみもおなごのためや。おなごあっての世の中。おなごがなくてはこの世は闇や」
夕霧太夫「夢みたいな事。世間をご覧なさい。女はみんな苦しんでるわ」
世之介「それはこの日本という国が悪いのや。もっとええ国へ行こ。ほんまにおなごを大事にしてくれる国にいこやないか」


「1958年、雑誌『映画評論』3月号において、「ある弁明」という評論を発表。「自分の映画の方法論は、近代的人間像を日本映画にうちたてるためのものだ」と主張し、当時の巨匠成瀬巳喜男を『日本の社会をそのまま認め、はかなき小市民の「情緒」を描く自然主義的風速映画』と、ほかに今井正作品とともに痛烈に批判した」(wikipdia「増村保造」の項)

時代劇の男性主人公は主に武士。女性は戦国時代は政略結婚の道具。跡継のための産む機械。食い扶持を減らされるために女郎に売り飛ばされたり。農家の嫁は子を産む機械に加えて一家を支える労働者。常に差別され搾取され続けてきた。

増村保造監督は自分のマニフェストの通りに女性を蔑ろにする日本人とは全く正反対の女性賛美者・世之介を主人公にして軽快で痛快なコメディを作った。

もちろん男性目線だし、女性を性的対象として見る視点であることは今見ると批判されるところではある。

「好色一代男」は世之介の7歳から60歳までの女性遍歴を描く小説。しかしこの映画の上映時間は92分。この映画制作された時代は映画は二本立て公開が普通だったから上映時間を長くすることはできなかったのだろう。

原作を最大限に忠実に映画化した例に『時計仕掛けのオレンジ』がある。映画化された時の原作は268ページ。上映時間は137分。

『好色一代男』の原作は光文社古典新訳文庫版で315ページ。でも上映時間わずか92分。

だから『好色一代男』の脚本家白坂依志夫は長い年月とたくさんの登場人物をほとんど切り捨ててスッキリまとめてる。

そして人物の出入りがスマートで早い。

『炎上』の吃音の学生を演じ『眠狂四郎』『大菩薩峠』でニヒルな剣客を演じ『ある殺し屋』で市井に溶け込む殺し屋を演じた市川雷蔵が打たれ強い明るい世之介を軽快に演じていて素晴らしい。なんでも出来る人だなぁ。

中村玉緒の死美人の微笑。水谷良重の溌剌とした魅力。そして若尾文子のゴージャスな美貌。

全盛期大映の実力が隅々まで発揮されてる。時に笑いながら時に女性の悲惨な運命に涙しながら女性を通して日本を笑い飛ばす。増村保造の傑作。
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