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放射能Xのhorahukiのレビュー・感想・評価

放射能X(1954年製作の映画)
3.8
Them!!

巨大化した蟻が驚異的なスピードで繁殖。
人類と巨大蟻との生存をかけた対決を描くSFホラー。

同年製作の『ゴジラ』と同じく放射能の恐怖を根底に置いた怪獣映画です。本作で登場する巨大蟻は1945年の核実験に端を発しているという発言から始まり、作中で何度も核や原子力の危険性を執拗に訴えかけている。

日本の『ゴジラ』やイギリスの『怪獣ウラン』等、50年代の反核怪獣映画たちと本作の最も大きな違いは巨大生物による積極的で直接的な攻撃・侵略の恐怖をほとんど描いていないところだと思います。

『ゴジラ』は周知の通りだし、『怪獣ウラン』では侵略や攻撃の意図はないにしても、地表に現れ大暴れしていた。しかし本作の蟻はほとんど姿を現さず、餌である砂糖を手に入れ、巣を作り繁殖するという蟻としての行動を終始貫いている。ただ単に小さかった時と同じ行動をしているだけなのです。

そして面白いのは核実験から9年というブランクが設定されているところ。原子力の表面的な効率の良さがその孕んでいる危険性を覆い隠し、隠された危険が水面下で徐々に膨れ上がっていくまでの時間的余白。今は便利かもしれないけど、見ないように遠ざけてきた火種が必ず近い将来に大きな爆発を起こすという極めて現実的で的確な警鐘。水面下で息づく危険を地中に潜む蟻という存在が象徴するという必然性のある設定だと感じました。

繁殖し増殖しようとする蟻を見つけ出そうと蟻研究の権威やFBIが奮闘する姿が本作のメインとなっており、原子力がばら撒く危険の火種がいかに発見のしづらいものかということを強く印象付ける。そして人間の管理の手から離れると思いもよらぬ広範囲に影響を及ぼし、一瞬で手の施しようがないほどの結果(人類の種としての終焉)へと直結することをも表現している。マラリアやコレラ等の感染症を引き合いに出してるのも面白いところだと思います。

わかりやすい怪獣の襲撃ではなく、いつ大量の巨大蟻が地表に現れるかという漠然とした不穏な空気感を終始漂わせることで、核のある現実と映画内の状況をシンクロさせるのも非常に良かったし、核の恐怖を「潜伏と拡大」という面から描いた面白い作品だと思いました。

そして核の脅威から「人類の未来」の象徴を救出しようとする展開も不自然なくらいにあざといんだけど、わかりやすくて良かったと思います。そんで他の方も指摘されてる通り『エイリアン2』への影響を感じるところが多くて、本作の影響力の強さを実感しました。

ちなみに本作の武器は第二次世界大戦の際に使用されたガチもんをアメリカ軍から借りて撮影してるようですね。しかも使用者までガチもんみたいで、気合の入れようが凄いですね!
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