MasaichiYaguchi

MY HOUSEのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

MY HOUSE(2012年製作の映画)
3.4
明らかに問題作であり、そして観る者の「価値観」を問われる作品でもある。
テーマがホームレス、モノクロで音楽も無く、台詞もとことん削ぎ落とされた「無い無い尽くし」の本作品。
「劇場版SPEC~天~」「20世紀少年」「トリック」「ケイゾク」等のエンターティメント性の高い作品で有名な堤監督が作ったとは思えない娯楽性ゼロの社会派映画。
舞台は名古屋で空缶拾いを生活の糧にするホームレスの鈴本が主人公、そして彼のパートナーであるスミちゃんが住む「家」が登場する。
冒頭、この簡易移動式の家が出来るまでが丁寧に描かれる。
その「家」は無駄が無く合理的で機能的だ。
この「家」とは対象的なもう一軒の「家」が登場する。
潔癖症の母、秀才中学生の長男と妹、医師らしい父の四人家族が住む瀟洒な一戸建て。
果たしてホームレスとエリート家族ではどちらが幸せだろうか?
大半の人はエリート家族と答えるだろう。
一生懸命勉強して良い学校、良い会社に入り、良い伴侶を得てマイホームを構える。
それが「幸せの構図」だと教えられたのは私だけではないと思う。
この作品を観て、このエリート家族が少しも幸せそうに見えないのは何故なんだろう?
家の中を根を詰めて掃除し続ける母、良い成績を取る為に参考書と問題集に取組み続ける長男、彼の息抜きは缶コーラと押入れ内のペットだけ、家族が揃う居間には温かな団らんも無い。
それに対し、生きるだけで精一杯だけど、鈴本には何にも捉われない生き方が有り、傍にはスミちゃんの笑いと温もり、「隣人」である「画伯」と「先生」との楽しい交流も有る。
映画は、この二つの「家」に住む人々を交互に描きながら、我々に「幸せの価値観」を問うている。
「答え」は夫々が導き出すしかないのかもしれない。
そのことはカタルシスも無く、呆気無いラストにも表れていると思う。