サマセット7

エスターのサマセット7のレビュー・感想・評価

エスター(2009年製作の映画)
3.5
監督は「フライト・ゲーム」「ロストバケーション」のジャウム・コレット=セラ。
主演は「死霊館」シリーズや「マイレージ・マイライフ」のヴェラ・ファーミガ。

[あらすじ]
3人目の子供を死産してしまったケイト・コールマン(ファーミガ)は、その心の傷を癒すため、夫ジョン(ピーター・サースガード)と共に、孤児院で暮らしていた9歳の美しい少女エスター(イザベル・ファーマン)を養子にとる。
聡明で快活に見えたエスターだったが、徐々に不審な行動を取り始める。
長男ダニエル、ろうあの幼い妹マックス、そしてケイトもやがて、エスターに違和感を抱いていくが、ジョンはエスターを信頼して取り合わない。
やがてエスターの周囲で怪我をする子供が出るが…。

[情報]
リーアム・ニーソンと組んで4本のスリラー・アクションを撮っている監督ジャウム・コレット=セラ。
主人公が周囲から不信を抱かれて孤立する「ニューロティック・スリラー」を得意とする監督だが、今作はその出世作にして代表作である。

全編にて、神経を逆撫でする展開の連打であり、主人公の母親が追い詰められて行く様は、まさしくニューロティック・ホラー。
監督の真骨頂と言うべきか。

今作は2000万ドルほどの製作費で作られ、7000万ドルを超える及第点のヒットとなった。
批評家の評価は分かれており、一般層の評価も絶賛か酷評か、見る人によって評価が割れている印象がある。

なお、妹役のアリアーナ・エンジニアは、実際に聴覚障害をもつ手話者である。

今作は、ネタバレ非推奨系の映画なので、鑑賞予定があるなら不用意にレビューなど読むことなく、さっさと作品を見た方が良い。

ネット上の近年のホラー映画特集や衝撃の展開をもつ映画の特集でしばしば選出される。

[見どころ]
とにかく不愉快な展開の連続。
観客の神経を故意に逆撫でする演出。
イライラさせる登場人物。
かわいそうな幼児。
イザベル・ファーマンの怪演と、ヴェラ・ファーミガの神経症的鬱演技。
ハマる人にはハマるだろう、終盤の強烈なツイスト。

[感想]
私には合わなかった。

そもそも小さい女の子が酷い目に遭いそうな話が耐えられない。
聴覚障害があるとなるとなおさらだ。
スリルというより、悪趣味と思えてしまう。

視点人物である母親に共感できないのも辛い。
色々と行動原理が自分と違いすぎて、応援する気になれなかった。
愚鈍すぎる夫に関してはこういう話、と割り切れるのだが。

ジャウム・コレット=セラの演出は、まさしく不安を煽りまくるものだが、私にはひたすら不愉快に思えた。
これがスラッシャーホラーやエイリアンなら楽しめるのだが、問題の相手が子供、というのが良くないのだろうか。
とにかく乗れない。

終盤の30分ほどは通常運転のホラーという感じで、そこそこ楽しめたか。
問題のツイストと伏線回収はなるほど衝撃的。

イザベル・ファーマンの演技は、凄まじいもの。
それだけをとって、傑作、という評価があるのも理解できる。

[テーマ考]
今作はジャンルムービーなので、テーマを云々するには向いていない。
真面目に考え出すと、精神障害、聴覚障害、養子縁組制度などについて、単に恐怖演出のために利用しているように思えて不愉快になる。

あえて言うと、家族の中に異物が入り込むことの恐怖。
我が子から、決して、目を離すな!!!という教訓的メッセージ。
現実を見ない夫とワンオペ育児に苦しむ妻の現代暗黒核家族の寓話、といったところか。

[まとめ]
エスター役の演技が不安を掻き立てる、ニューロティック・ホラーの有名作品。
ジャウム・コレット=セラ監督は、2022年公開のDCEU作品ブラックアダムの監督にクレジットされているが、いかに。
今作の前日譚の制作も発表されているが、面白くするには相当工夫が要りそうだ。