プペ

エスターのプペのレビュー・感想・評価

エスター(2009年製作の映画)
3.8
最近、自身が"映画好き"と謳っていいのか疑問が湧くほどに映画というカルチャーから遠ざかっていた。
そんな無気力な精神の中、録画していた今作を無気力な精神で鑑賞に挑む。
当然ながら視聴済みの今作ゆえに驚きはないものの、やはり恐怖感と不穏感をこれでもかと煽る演出と、卓越した画作りは何度見ても天晴れだ。

基本的なプロットとしては、ホラー映画の傑作「オーメン」を彷彿とさせる。
ただ、描き出される物語の本質は、現代社会と、或る夫婦間における普遍的な「鬱積」を炙り出しており、主人公と同様に二人の子を育てる同世代の者としては、殊更に映画世界が醸し出す居心地の悪さと不気味さを感じずにはいられなかった。
決して著名な監督が手がけていたり、有名な俳優が出ているわけでもない極めてミニマムなバジェットのホラー映画でありながら、評判通りに独自性に溢れた恐怖感を生み出す映画ではあったと思う。

しかし、ある意味致し方ないことではあるのかもしれないが、“ネタバレ”以降のクライマックスにおける恐怖感は、それまでに比べて著しく急降下してしまっていることは否めない。
“エスターは実は○○でした!”という真相は確かに衝撃的だけれど、それを突きつけられた途端、得体の知れない不穏な恐怖感は一気に霧散した。
その真相は、ある意味では確かに恐ろしいけれど、裏を返せば、ただただ“イタい”浅はかな狂った女の凶行にしか見えず、一旦そういう見え方をしてしまうと、この映画が行きつく顛末も容易に想像できてしまう。

作風に同じ匂いを感じた「オーメン」は、“オーメン”の天性的な悪魔性と表現した演出同時に、彼を「悪魔」の権化として捉えてしまう要因が、主人公夫婦をはじめとする周囲の人間の精神的な脆さにも起因するのではないかという疑念を絡ませたストーリー展開が極めて巧かった。

今作に隠された「真相」の部分が決して悪いとは思わないが、そういうことなのであれば、もっとエスターの言動は天才的に狡猾なものとして描き出されるべきだったのではないか。
すべての言動があまりにも子供臭く、そもそも狂人であったとしても、もう少し上手く世渡りしろよと、いらぬ感情を抱いてしまう。
“ネタバレ”された瞬間に、そういった点での符号が成されなかったことが、ホラーとしても、サスペンスとしても、非常に残念だったと思う。

人の親になったことない、喪女な私が口幅ったく言わせてもらうならば、実子たちの瞳に滲み出ている明確な「恐怖」を感じ取れていない時点で、主人公夫婦は「親失格」だったと断言せざるを得ない。
もちろん私は「人間失格」である。
そういう意味では、不気味すぎるエスター役の子よりも、勇敢なマックス役の子の女優としての表現力の確かさの方が凄いと思える。


ああ、やはり映画とはいいものだ。
ただただひたすらに、映画だけをずっと見ていたい。

昨今の作品でこれぞ!というものがあればコッソリ教えてほしい。
「いい映画を観たな」という率直な満足感に満たされたい気分だ。
プペ

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