幽斎

エスターの幽斎のレビュー・感想・評価

エスター(2009年製作の映画)
5.0
スリラーも様々なジャンルが有る。レビュー済で挙げれば「インビテーション/不吉な招待状」が不条理系。「隣人は静かに笑う」は謀略系。「ドント・ブリーズ」はホラー系。「ゴーン・ガール」はサイコ系。「インビジブル・ゲスト/悪魔の証明」は謎解き系。「悪の法則」の社会派まで有る。でも一番人気は「SAW」のどんでん返し系。本作は横綱級のカタルシスが味わえる。

チャイルド系は新しいモノでは無く、「悪い種子」「危険な遊び」と一定の需要は有る。「何で安易に養子を貰うのか」と思われるかもしれませんが、ソレは家の車が表してる。登場するのは日本のLEXUS。ハリウッドではLEXUSは富裕層の象徴であり、MercedesやBMWとの違いはリベラルを意味する。アメリカでは(撮影はカナダ、風景が美しい)キリスト教の影響も有り金持ちは社会貢献が必然で、寄付か養子が殆ど。流産で精神が不安定との理由は、社会背景を考えれば説得力は有る。金持ちの道楽と言うよりも、他人の目と言う意味合いも有る。

主役のIsabelle Fuhrmanは早いモノで今年で22歳。本作でブレイク間違いなし!に為らないのがハリウッドの厳しさ。顔は面長で美人です。全ての方が彼女に頑張ってほしいと思う筈。私も大ファンVera Farmigaは、多くの作品で脇役だったが本作で表舞台に。21歳違いのTaissa Farmigaとのウクライナ美人姉妹共演にも期待。妹役のAryana Engineerの光る演技も良かったが、彼女は実際も聴覚障がいで、手話や読唇術は演技では無い。人の良い旦那を演じれば天下一品のPeter Sarsgaardは、「お前が鈍感だから」と総攻撃を食らってますが、だってそういう役なんだもん(笑)。

秀逸なのは、疑惑の原因が人格障害と言った使い古されたテーマでない事。エスターは、その不遇な生い立ちからソシオパスと思われるが、部屋の壁に描かれた絵の鬱屈さは考えさせられる。成りたくて生った訳じゃない!と魂の叫びも聞こえる。彼女が湖の底に沈んでいくのを、私は素直に喜べない。

家族を支配する過程を丁寧に描く事で、負のスパイラルを止められないジレンマを観客も存分に味わう。Vera Farmigaが孤立する様をエスターの正体と絡めながら伏線を張り巡らせる脚本も素晴らしい。子供を使ったスリラーのハードルを一気に上げた、エポックメイキングな傑作。

女性は化粧と言う仮面を着けるし、年齢を偽る事も有る。エスターを女性の本質として抽象的に描くから、深層心理に響いてくる。女の抜け目なさと、男の単純さはいつの時代も変わらない。それを明確に具体的に見せるだけで不思議と恐怖に繋がる、深いテーマも隠されてる。一つだけ言える事は、男ってバカね、と。
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