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エスターのCookieMonsterのレビュー・感想・評価

エスター(2009年製作の映画)
3.4
娘を死産で亡くした妻とその夫
ふたりは孤児院からひとりの女の子を引き取るが、一見人好きのするその笑顔の裏に覚えた違和感がやがて予期せぬ結末を迎える

よくできたホラーフィルム
作中での音楽の入り方がとてもいい
音で驚かすような安い手法はそこにない
それは画面作りでも同じで、物陰に潜むエスターを常に予感させながら彼女はそこにいない
まるで妻が彼女に感じている違和感と、彼女の正体を捉えることができない苛立ちを暗喩するような作りだ

この作品ではみんなが溺れている
妻はかつて酒に溺れ、聾の娘を池に溺れさせて殺しかけた
エスターは自らの欲望を律することができず、心中に渦巻く様々な欲に溺れている
一面の銀世界の中で凍った池の氷は、エスターを招き入れた一家の危険を示すように、薄氷を踏むかのごとく、いつ池に落ちてもおかしくない緊張感を家の中に作り出している

溺れるとき人は行き詰まる、窒息する、息ができない
それは死産を経て、夫婦関係も同時に行き詰まっていたふたりの関係性を表象するかのようで、外部から内へ、他人を受け入れたことで2人の関係は雪解けを図ろうとするもその目論見は次第に破綻していく
養子を迎え入れようとする彼らの姿は死産した子供の命を取り替える作業のようで、そんなふたりを罰しようと現れたのがエスターであるようにも映る

エスターは孤児であり、どんなに受け入れようと家族にとって他人であり、異物だ
母親が感じた違和感はやがて毒として家族を蝕み、関係性を壊していくが、そこにあるのは圧倒的な血の肯定だ
血の繋がりのある人間たちだけが敵に気づき、共闘し、孤独なエスターを倒すことができる
だからこそ最後に妻にとって血の繋がりのない他人である夫は殺され、お腹を痛めた子供たちだけは救うことができる

この作品の流れは人間と悪魔という大きな違いはあっても"オーメン"とまったく構図で、血の繋がりのないものが家を壊すというストーリーであり、だからこそエスターが描いた画も燃え盛る家の中で殺される人たちの姿になっているのだと思える

またエスターは悪魔ではなく歴とした人間だが、聖書や天国と地獄といったキリスト教的な世界観が描かれる
そしてエスターを招き入れる夫婦も、病院で殺されかける息子も含めて、子供を殺しかけたり、妻を裏切ったり、それぞれの罪を背負っている
エスターの存在は悪だが、彼らを罰する存在としても機能しているのは面白い

これはホラーであり、誰にも受け入れられないエスターのラブストーリーであり、罰せられる罪人の物語であり、他者を排除する血の物語でもあり、多分に多重的な作品に思える
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