荻昌弘の映画評論

失われた心の荻昌弘の映画評論のネタバレレビュー・内容・結末

失われた心(1947年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 ジョオン・クロフォードが、中年女性の心理を表現するうまさというものは、彼女がアカデミイ賞をとった「ミルドレッド・ピアアス」以来定評になっている所だが日本で公開された「ユーモレスク」や「哀しみの恋」でも、それは充分察することが出来た。この作品でも彼女は、ひとりきりの男性を愛することあまりにも激しすぎたため、ついに心の平衝まで失ってしまった女性を演じて、ただただ見事である。
 もっともこの映画は「女相続人」のように、主人公の内面的な心理だけを掘り下げて行くのが目的ではなく、ハリウッドで流行していたニュロティック(神経病)趣味をとり入れた、女性向メロドラマなのだが、その中で彼女は、作者の『あやつり人形』ではない一個の女性というものをちゃんと創りあげている。殊にそのような場合の彼女が匂わす雰囲気とは、まさにおとなの世界のものであるのも、注目にあたいすることだろう。
 相手役のヴァン・ヘフリンが、珍しくスムウス・ガイを演じて、これまたひどくいい。作品全体としては、流れに歯切れのわるいゆるみがあつて、案外ジイン・ネグレスコあたりに撮らせたらもっと……と思われる点もないではないが。
『新映画 7(12)』