海

夏至の海のレビュー・感想・評価

夏至(2000年製作の映画)
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洗濯物を干して、お風呂の栓を抜いて、朝起きたくないのに起きて、仕事に行って、泣きたいのに笑って、そういうことを毎日同じように繰り返しながら、毎日同じひとを愛している、というのは、言い表せはしないほどに苦しくて悲しいことだと思う。愛に、常について回る後ろめたさに、安心してしまうようになったのはいつからだろう。誰かと付き合っているときは、それを理由にいつでもこのひとと別れることができるのだ、と自分をなぐさめた。叶わないひとを好きになれば、それを理由にいつまででもこのひとを好きでいればいいのだ、と自分を甘やかした。恋人という生身の人間じゃなく、自分自身の中にある深くて暗いあきらめにも似た気持ちと、毎晩毎晩抱きあって眠った。去った後にこれ以上ないほどさみしいと感じる、感じられる、その容赦のない熱になら、いくらでも沈んでいける。わたしの愛っていつも、あなたがこちらを見ていない時にかぎって、生まれていた。どしゃ降りの中を走っていった時の背中、そのとき香ったアスファルトと柔軟剤、こっちを見ない横顔、笑っている遠い声。わたしの中には、あなたがわたしから目をそらしたすきにだけ育つことのできる植物が、あったの。離れれば離れるほど、愛しているは浮き彫りになる。悲しくて苦しくて悔しくて切ないからこそ真っ黒な感情だってこの両眼がこわれるほどに光りだせるのよ、永遠に、何一つ報われないわたしと何一つ報われないあなたの「ふたり」でいたかった。手に入らないもののために、どれくらい必死になれますか。幼いころ見た夢や、友人の語る未来から、かけ離れてしまった自分のために、どれくらい正直になれますか。未練がましい臆病者、凛とした嘘つき、心は実際に収縮をくりかえしている。わたしとそっくりな生き物がこの世のどこかに居るならば、いま雨音にかき消されながら笑いあいたい。孤独を鳴らしあいながら、安心しあい、そっと抱きあいたい、と思う。
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