ハマジン

愛の奇跡/ア・チャイルド・イズ・ウェイティングのハマジンのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

ゆっくりと前進するカメラが自動車の正面からドアの開いた後部座席に回り込み、不安そうな面持ちで座る少年をとらえる→自動車からなかなか降りようとしない少年を車のおもちゃを使って外に誘い出す男(バート・ランカスター)を車内からとらえたカット→建物の玄関前にいた別の男(スティーヴン・ヒル)が自動車から降りた子供に気づかれないようそっと運転席に近づく→おもちゃの車に乗って遊ぶ少年をとらえた横移動ショットで、画面左にフレームアウトした自動車のエンジン音が突然けたたましく鳴り響き、カットが変わると自動車が後部座席のドアを開けたまま(!)画面向こうへ走り去る→置き去りにされた少年が"Daddy!!"と叫びながら追いかけようとするのをバート・ランカスターが押さえ込む→揉み合う2人のアップのシルエットにスクラッチが入り暗転、タイトル・クレジットへ
…という強烈なアバンタイトルだけでも必見と思います。

発達障害児のための教育施設で働く新人教師ジュディ・ガーランドの葛藤を通して示される、「施設の子供を本当に愛しているのならば、愛の流れをせき止めなければならない」というある意味「大人」な結論は、製作を担当したスタンリー・クレイマーの得意とする良質な社会派ドラマならではと言えるのだけど、その「良質さ」に対してカサヴェテスの演出が時に大きく逸脱するいびつな瞬間が何ともスリリング。クレイマーをはじめとした製作陣とカサヴェテスが衝突したというのもうなずける一作。

バート・ランカスター演じる校長の精神科医の揺るぎなさや、ジュディ・ガーランド演じる女性新人教師の決意よりも、カサヴェテスがカメラの焦点を合わせるのは、愛する相手に向かって一心に注がれる少年ルーベンのまっすぐな眼差しや、世界を理解することはできてもその世界に対してうまく反応することのできない彼の寄る辺なさ(あのラグビーシーンのいたたまれなさ!)の方だ。

本作の「結論」に対するある種の異議申し立てとして、『フェイシズ』から『ラヴ・ストリームス』に至る一連の探求がある、と考えるといろいろ腑に落ちるところがある。カサヴェテス映画において「愛の流れはどこまでも続き、止まることがない」のだ。
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